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君の心が動くまで⑥

エルデグラートが戦場から帰って来たのを全員で出迎えると、大量に血が付いた腕を布で拭う。

駆け寄ったメルトの頭を撫で、ナイグラート龍王国の重臣を集め、奥の部屋に消えていく。


「アリス、ナーガ、人間。私たちはこの城を出るぞ、途中鈴鹿を拾ってこの国を出る」


「出るの? まだ戦いは終わってないんだよ」


「私はトールさんに付いて行きます、助けてもらったのでどこまでも」


「そう言えば鈴鹿は居なかったけど何してたんだ? どうせあんたの事だから何かしてたんだろ?」


ただ1人鈴鹿に触れた青年を少しだけ見直し、予め鈴鹿に頼んでおいた事を3人に説明する。


「当然であろう、あやつは鬼人ではないと言いながらも何故か角が生える。それを利用して私たちはヤーパン国に行く事になった」


だがそれを聞いても反応しないアリスと青年に対し、ナーガは目を輝かせて私の手を握る。

待っていた反応に、恐らく雨のように浴びせられるであろう褒め言葉を待っていると、やっと口を開く。


「ヤーパン国は前から興味が有りました、美しい文化と建造物。そして侍と呼ばれる剣士、是非行ってみたかった国です」


「そうであろう、その国には知り合いが居るからな。確実に入れる筈じゃ」


そこに行けば完全に傷を癒してくれるアテがある為、出来るだけ早くヤーパン国に入っておきたい。

生憎誰も傷を癒す術を持っていない為、どうしてもその人物に会う必要がある。


そうと決まって私を持ち上げたパラシュが城の外を目指すと、多数の龍人が私たちを取り囲む。

戦う余力が残っているアリスとナーガが臨戦態勢に入り、戦えるかどうかも分からない人間が、真っ黒な魔導書を持って構える。


「何か用か、私たちは戯れている暇など無いのだが」


「お前が何者なのかは今でも分からない、だが、龍人を守らんと立ち上がった姿は信用出来る。お前を龍人の総大将だと認めてやる」


目の前で上から目線で喋る赤髪の青年は、私を指差して睨み付ける。

特に見覚えなんて無いのだが、総大将に勝手に認められても、龍人王のエルデグラートが許す訳が無い。


勝手に集まった龍人だけで出ていけば、それは反乱分子と見なされて、確実に争いになる。

同族同士での殺し合いは種内での歪みを生むことになり、エルデグラートが漸く纏めあげた国が、再び戦乱の時代に陥る。


エルデグラートは兎も角、メルトを危険な目に遭わせる気は無い。

そもそも1度異分子と衝突しただけで、この国が簡単に戦乱に陥るとは思っていないが、好機と見る諸侯は少なからず居るだろう。


「では、メリュー公国にて私たちを待っていてはくれぬか? 1度に全員が出るのではなく、少しずつこの国から出るのだぞ」


「その点は分かっておりますトール様、私が責任を持ってメリュー公国に全員連れて行きます」


赤髪の青年の隣に立った青髪の青年が、以前とは違う目を向けてくる。

やっと思い出した2人を信じようと頷くと、顔を明るくさせてどこかに走っていき、私たちを囲んでいた輪が開く。



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