千変の百鬼将
戦闘が始まった直後、明らかにミドガルが押されていた。
レーヴァテインは次々と姿を変えて、間合いに合った戦い方でミドガルを追い詰めていく。
ミョルニルは私に最適化された武器の為、所持者ではないミドガルに、ミョルニルは真価を発揮しない。
「くっ……流石にレーヴァテインを持ったガルドナル相手に、人の姿では当然無理だったみたいですね〜」
「出すなよ、ミドガルにはこの国で働いてもらう。ドラゴンと絶対にバレるな」
何とか気力を振り絞ってドラゴンの姿になり、爪で牽制してミドガルを口の中に入れる。
翼を羽ばたかせて地面を思い切り蹴って、城の中からなんとか抜け出す。
暫く飛んでいると、力が入らなくなって徐々に高度が下がる。
耳に入ったのは馬が地を駆る音が響き、尻尾に矢が突き刺さる。
「爆発した矢に尻尾を持ってかれたか、すまぬが落ちるぞミドガル」
「近くに湖があります、そこに人型になって落ちて下さい」
目視で湖を確認して、翼を動かして軌道修正をして、墜落寸前に人型になってミドガルを抱きしめる。
ミドガルの頭をお腹に当てて、弾頭のように覆い被さって着水の衝撃を背中で受ける。
少し沈んでからミドガルに抱えられ、水面に引っ張られる。
「やったよ〜、アイネちゃ〜ん。良く頑張ったね〜」
「撫でるな撫でるな、全身が痛いしお腹も空いた。兎に角拘束され続けて身も心もくたくただ」
岸に引き上げられると、遅れて湖の水面から女の姿のロキが顔を出す。
それを見たミドガルは私を背の後ろに隠して、ミョルニルを向ける。
にこにこ笑って岸に上がったロキは、全く濡れていない体を地面に横たわらせる。
ゴロゴロと草の上を転がるロキに、ミドガルは苛立ちを隠せないでいる。
「あ、百鬼将くんはここに辿り着けないよ。迷宮にしておいたからね」
「そもそも何で人間に神格器なんかを渡してるのですか、それも姿を変えるレーヴァテインを」
「僕に言われてもな〜、シンマラ君が渡したとしか言えないよ〜。それか倒されたか〜」
「回収して下さい」
「嫌だよ〜、今回はアイネをもとの姿に戻す為に来たんだし〜。力も制限されてたから十分の一も出なかっただろうね〜、ざまーみろ」
ロキの指が鳴らされると、小さかった体が元通りになって、尻尾が時間を掛けずに戻る。
「やっと戻ったか、ジャンヌとアリスは?」
「あの街で待ってます、クライネちゃんを助けに行きましょう」
「そうだな、礼を言うロキ。だがあまり邪魔をするな」
「分かってるよ〜、気を付けてね〜」
霧のように消えたロキを見送ると、湖面が盛り上がってドラゴンが姿を現す。




