君の心が動くまで③
目前に迫ったナハトに突進して、抱えたまま地面に向けて速度を上げる。
土煙を上げながら大地を暫く滑るが、黒く染まった魔力に守られたナハトには、服にすら傷が付かない。
腹に足の裏を当てられて蹴り飛ばされ、続け様に黒き魔力を纏った槍が飛来する。
鎧とする為に纏っていた龍力を大きく削り取られながらも、槍が勢いを殺されて無力化される。
漸く反撃に切り替えようと龍力を口に溜めるが、両手を広げたナハトから多数の雷の弾が降り注ぐ。
それに加えて虚空に留まっていた槍が再び息を吹き返し、纏っていた膨大な龍力を早くも消し飛ばされる。
「やはり比べ物にならない程強くなっておるな、これは本気でやらねばな」
バハムート型に姿を変えて回避運動を始めると、槍が追撃を開始して、黒雷の弾丸が殆ど隙間無く飛んで来る。
溜まった龍力を口から前方に放ち、全方向に花開いた雷が光の道を作る。
高度を精一杯まで上げ、力を抜いて回転しながら地面に向かって落ちる。
ぶつかる直前で翼を大きく広げて止まり、最後に残った槍に向け、龍力を拳に乗せて突き出す。
半分以上の龍力を撃って漸く槍を弾き飛ばし、龍力節約の為に人型になる。
「トール、オマエたち、カミをすべテころス」
「何故そんな事を言うのだ、私はおぬしらを殺そうなど思った事は無い。確かに忌避する神も居た、だが私は……」
「ワタシは……私は貴方が好きですアイネさん、手に入らないなら殺します。こんな私たちを拾って育ててくれた貴方が、ドジなのに頑張ってる貴方が、すぐ拗ねる面倒な貴方が、好きです。だカラしネトール」
「そうか、ならば子のやった事の責任は親が取らねばな。このアイネ・トール、預かった愛しいおぬしらを討つ。これだけはおぬしらに使いたくなかったがな」
ナハトが携えている剣から魔力を吸い取り、龍力に変換しながら術式を展開し、龍力から神力に変換して爆発させる。
吹き飛んだナハトを追撃して黒い魔力を削いでいき、左頬にあった黒い痣も殆ど消え掛けている。
攻撃を打ち切ってナハトを思い切り抱きしめると、ダラりと脱力して剣を落としたナハトとゆっくり地面に降り立ち、布を平原の草の上に敷き、膝枕をして目が覚めるまで見守る事にする。
そう遠くない所から馬が地を蹴る音が多数近付いて来ており、ここに長居は出来なくなった。
仕方無くヨルムに龍力を飛ばして、直接会話をする事にする。
「久し振りじゃな、今からナハトをそちらに龍力で飛ばす。おぬしは受け止めてそのまま国に帰ると良い」
「久し振りアイネちゃん、あんまり大きな声で言えないのが残念だよ〜。任されました〜」
「では飛ばすぞ」
殆ど使い果たした龍力を自然から借り、ナハトをヨルムの反応がある場所に飛ばす。
ナハトの上に置いた、それぞれ色の違う、龍力を固めて作った花の結晶をまた作る為に、少しずつそちらに龍力を注ぐ。
ナハトが見えなくなるまで見送り、ミョルニルとパラシュたちが居る王都に向けて、疲弊し切った体に鞭を打つ。




