龍人種の王③
飛龍を全て解放した後、イシュタルの隣まで降下する。
人類と同じ土俵で戦っているイシュタルは踊るように戦い、敵を接近させる事なく跡形も無く焼き尽くす。
「ドラカだ! 上のを狙え!」
「こちらに本隊は居らぬ、移動するぞイシュタル」
「分かったわ、あっちの傍観者は貴方の眷属かしら?」
イシュタルが指差す方を見てみると、森の近くにナハト、リリーリア、クローチェが馬に乗っていて、その先頭にクライネが居た。
出来るだけ見ないようにイシュタルを回収して、来た道を引き返す。
「やっぱり眷属が居たけど、気になったのはあのアトラルの存在?」
「何故分かった、クライネがアトラルという事」
「微かに貴方の匂いがしたし、あの三眷属を付けるなんて異例でしょ? それにあの娘の親も分かってるわ」
「……そこまで調べて来たのか、そうだアトラルだ。クライネは気付かぬ内に魔力を生み出し続ける、その体は持って二年だろうな」
「また同じ事を繰り返すの?」
「まさかな、策があるから引き取った。死ぬ予定は無かったが、大きく狂わされた」
森の奥に居る人間の魔法使いを睨んで速度を最大まで引き上げる。
遠い昔のアトラルを巡った争いを思い出すと、今でも血溜まりの中で横たわった自分の姿を思い出す。
思い出すだけでも無力さを思い知らされ、原初神の力を手に入れようと試みては失敗してきた。
「貴方がまだ人の姿をしていた神だった時を覚えてる?」
「もう覚えておらぬ」
「本当に嘘が下手、そこは昔のままかしらね。それともあの娘の事が好きになっちゃった?」
「悪いか?」
「それはどっちに対しての悪いかなのかしらね」
「どちらもだ」
明らかに不機嫌になったイシュタルは私の背中に掌をぺしぺし叩き付け、無言で嫉妬の怒りをぶつける。
大きな溜息を吐くと、今度は拳に変わって電気が走るようになった。
まだまだ我儘は直らないかと呆れていると、城の前で交戦中のドラゴンと人間が居た。
既にナイグラート龍王国の国境を跨いでいた人類連合本隊は、後方に約十万の数が居ながら、本隊には更に二十万以上は居る。
龍力を口の中に溜めて空の人間に威嚇射撃をしながら、イシュタルを補助してより大きな雷を作らせる。
「我霹靂を司る神、誰よりも美しく誰よりも誇り高き者。千変の空を駆けるは我が意思、我が祈り、そして我が怒り。この唸りを届けよう」
柱のように伸びた太い雷が地に降り注ぎ、一瞬で辺り一帯の全てを跡形も無く消す。
大きな魔力が集まっていたのを察知して逃げていたドラゴンは、見たところ巻き込まれておらず、撤退したと誤解して追った人類連合の半数が減っていた。




