レーヴァテイン
ぺたぺたとのろのろ走るヨルムは、すぐに息を切らして私を地面に下ろす。
「もう駄目〜」
「その駄肉を落としたら少しは楽になるやもしれぬな」
「大きいのは成長したからです〜、これでもお腹はすごく細いんです〜」
「重いのには変わりなかろう」
ふう、と息を吐いて立ち上がったミドガルは、私を置いて先程よりも早いスピードで走り出す。
「待たぬかミドガル、私を置いて行くでない」
「んも〜、乙女が傷付くことを言うからですよ〜。じゃあ〜、頼んで下さい。母なる龍ヨルムちゃん、このままベッドに運んでいって一緒に一夜を明かして……」
「ジャンヌが来てくれぬのか」
「残念ですがここでお別れですね〜」
涙を拭う真似をして背を向けたミドガルは、抵抗出来ない私の頭を満足するまで撫でて歩いていく。
「お前たちそこで何をしている!」
巡回していたらしい兵士に見つかって、血相を変えて槍を構えながらこちらに走って来る。
だぼだぼの布を着せられている私は、明らかに脱獄犯だと判定されるが、鱗を綺麗な服にしているミドガルは、上手く言いくるめれば難なく逃れられる。
取り敢えず敵意が無い事を示す為に、仰向けになってじっと待つ。
こんな劣等種如きに好き放題やられるのも気に食わないが、クライネの為なら仕方が無い、と言うより動けない。
「お前その服は捕虜の着るもの、こんな子どもが捕虜とは、余程の事をやらかした危険なやつなんだろ」
やっぱりミドガルよりこちらに来た兵士は、殆どひとりごとのようなことを言って、死体のように反応しない私を槍の尻で突っつく。
今すぐ燃やしてやりたいという衝動を抑えて、より高度な死体のフリを心掛ける。
「あの〜、その子捕虜じゃなくて〜。私の奴隷なんです〜」
戻って来てくれたミドガルに服を掴まれて、まるでボールの様に小脇に抱えられる。
「これは失礼致しました、麗しき麗人」
敬礼して鼻の下を伸ばした兵士は、にやにやしながら巡回に戻っていった。
手をひらひらと振って何度も振り返りながら歩いて行く兵士を見送り、ミドガルは私を抱えたまま走り出す。
正直吐きそうになるので文句を言いたいが、先程とは明らかにスピードが違う真面目モードなので、容赦なく置いてかれそうなので我慢する。
「待たぬか捕虜とその仲間よ、逃げ切れると思っておるのか」
「正直馬鹿ばっかりなので割と思ってました〜、戴冠式の途中なのに騎士長様がこんな所に居るんですもの〜」
「ああ言う場は儂には合わん、それ故警備に回らせてもらった」
「どうしよアイネちゃん、このおじさんアイネちゃんと同じ様な喋り方だから殴りにくいよ〜」
「斯様な喋り方しておらぬだろ」
「まぁ、ぶん殴りますけどね〜」
騎士長が抜いた剣は、ロキが鍛えたといきり立っていた時に持っていた剣と酷似している。
珍しく真面目に強化していた姿を思い出して、敵に回るとあまり良くないとロキも笑っていた。