龍人種の王①
複数人の龍人に囲まれた私はどうにかして逃げ出す隙を伺うが、常に警戒している龍人からは逃げられそうにない。
そうこうしている内に既に王の間の前まで到着しており、この扉の向こうには会いたくもない者が居る。
しかもいつも凄く不機嫌で、入った瞬間に龍力の塊をぶつけられるかもしれない。
そんな最悪の状況に備えて扉を開くと、龍力の代わりに声が飛んで来る。
「この恥晒しが! 貴様よくこの国の国境を跨いでこれたものだな! 死にたくなければ今すぐこの国から出て行け!」
「御父様、トール様はドラゴンの総大将になって下さりました。そのよ……」
「お前は黙っておれメルト! この忙しい時に城を抜け出して、そんなに我を困らせたいのか!」
「申し訳ありません、出過ぎました」
引き下がったメルトから視線を移し、再び攻撃的な目を私に向ける。
「まだ居たのか! 下がれ無礼者!」
「私はおぬしの配下ではないぞ、神に対してその態度とは。無礼なのはおぬしではないのか?」
「貴様が神を名乗るなど許されるものか、我らの神はナーガ神だけだ。貴様みたいな堕神を神とは認めん」
「ほう、ならばナーガ。おぬしの命を救ったのは誰か教えてやれ」
アリスの手をぎゅっと握っていたナーガは肩を揺らし、一瞬で涙目になってしまう。
それを見たアリスが手を引いて前に出て、エルデグラートの前に立つ。
ナーガに龍力を流し込んでドラゴンの姿にすると、王の間に居た側近たちが声を漏らす。
ドラゴンに姿を変えたナーガを見て、エルデグラートも目を見開く。
「あなた様は、龍の王ナーガ神様。お前たち低頭するのだ」
玉座から地面にひれ伏したエルデグラートと側近には、先程までの覇気と人を見下す空気は無くなっていた。
その代わりに絶対を目の前にした態度になり、白いドラゴンに立派な男たちが跪く。
「あの、本当に辞めてください。そんなに偉くないので」
人の姿に戻ったナーガは申し訳なさそうにエルデグラートに歩み寄り、少し膝を曲げて様子を見る。
ナーガの隣まで歩いてエルデグラートを見下げ、顔を上げさせる。
「さて、これまでの無礼を謝罪するのだエルデグラート。さすれば今回の事は水に流してやらんこともないが」
「……此度の非礼、申し訳なく思うトール」
「謝り方も知らぬのか、まだ人……」
「そこまでにしとけゴミ野郎、おっと失礼しました。つい口が勝手に」
「その年齢で体が言うことを聞かぬのかミレニア」
「そんな事はどうでも良いのです、遂に人間が動き始めました。龍人種の本拠地であるこの血を叩こうと、約十万の兵がこちらに来ているそうです」
立ち上がったエルデグラートはいつも通りの覇気を取り戻し、龍力で城に居る全兵士に命令を下す。
一気に慌ただしくなった城の中は、これから戦争が始まる緊張感をいち早く感じさせる。




