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天空の覇者と地上の奏者③

「私も残ろう、先程まで関ヶ原に居ったんじゃがな。まだ戦の熱が冷めぬ、もう少し相手をしてもらおうではないか」


「命を落としても知らぬぞ、鬼族の女子よ」


「徳川とは何度も戦ってきたが、私は死に掛けた事など無い。何せ可愛い上に強いからな」


刀を構えた少女の隣に立ってミョルニルを構えて、目と鼻の先に迫った帝国兵を待ち構える。

ミョルニルの刃を森に向けて振り抜くと、丁度飛び込んで来た兵士を馬ごと宙に斬り上げる。


ミョルニルの上に乗った少女が空に上がり、アリスの様に刀を両手に出す。


聖家十代目当主聖ひじり 鈴鹿すずか、推して参る!」


両手から伸びた刀は森の中に消えて、多数の断末魔と馬の鳴き声が上がる。

少女を見て昔共に居た鬼族の戦う姿を思い出していると、森の帝国軍の一番後方に魔力が集まっている。


「不味い!」


鈴鹿に向けて放たれた槍のようになった炎を、不思議そうに眺めていた鈴鹿を抱え、槍の進路から外れて森に姿を隠す。


「奴らはおぬしのように魔法を使う、炎や水などを生み出して武器とする。十分に気を付けろ」


「すまんなぁ、あんなものが出て来ると思わへんでなぁ。さて、時間も稼げたし引かへんか?」


「そうだな、では飛ぶぞ。振り落とされるなよ」


「空を飛べるなんて楽しみや、優しゅうゆっくり頼むで。優しゅうな」


「舌を噛むから黙っておれ」


反対側にデコイを放ち、皆が逃げた方とは逆に暫く飛び、ある程度進んで旋回して方向を変える。

雲の上を飛行していると、鈴鹿は月を見て手を伸ばす。


「如何したひじり殿」


心配になって声を掛けてみると、彼女は私の視線に気付いたらしく、小さな手で目を覆ってくる。

突然遮断された視覚を取り戻す為に顔を振るが、動きに合わせて手が移動する為、諦めて暫く落ち着いて飛行する。


その間ずっと頬をもう片方の手で撫でられていたが、幼子が剣を振るっていた手は予想以上に小さかった。

剣を取る理由は人それぞれだが、この様な小さな子は余程の理由が無いとそれに触れる事すらない。


「おぬしはその歳にして何故剣なんか振るっておるのだ?」


「野暮な人やねぇ。やけんど、あんたさんみたいな鈍い人嫌いやないで。それとうちの事は鈴鹿って呼んでくれて構へんで」


「随分と皆の前とは態度が違う様だな」


「まぁ、あんたさんは何故か落ち着くでな。例えたら聖母みたいなもんや」


聖母と言うのが納得いかないが、野暮な人やねぇとまた言われそうな為、唸るだけで留める。

それと同時に見た目の割に言う事が歳相応ではないと、それなりに聞いておかねばならない質問が口から出そうになる。


「聞いても良いか」


「えいよ、あんたさんなら何でも教えたろ。私の事を隅から隅までな」


目の上から掌を退けた鈴鹿と目が合い、何故か小恥ずかしい気持ちになる。

咳払いをして気を紛らわせて、失礼な質問をぶつけてみる。


「歳を聞いても良いか?」


「あぁ……女に歳を聞くなんて、ほんに失礼やな」


「すまぬな、だが聞いておきたくてな」


「二十と一歳や。聞いたんやから呑みに連れってーな、倒れるくらい呑ませてもらうでな」


「承知した。だが、まずは安全な国に逃げてからだ」


「ほーん。なら、もう少しあんたさんのお姫様で居れるって事やね」


何を言ってるのか暫く理解出来なかったが、そう言えばお姫様抱っこのまま飛行していた為、傍から見ればそういう事になる。

空の上には滅多に誰も居ないが、念の為一応周りを確認する。


誰も居ないのを確認して一息着くと、鈴鹿と目が合って結局一息着けなかった。


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