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天空の覇者と地上の奏者②

龍力を受けて人型に凝縮された二人を運んで来たメルトは、頭を深く下げて拳を固く握る。

肩を震わせてドラゴンになったメルトは、瞳を紅く光らせて隆介に手を伸ばす。


「セット……Feuer!」


足元が突然赤く光り輝き、後退しなければ人型のままでは深手を受ける程の威力になっている。

かと言って隆介を見捨てる訳にはいかない、でもドラゴンになるのは間に合わない、なら降り頻る痛みを受けながらでも弾き飛ばすだけ。


龍力を下半身に集中させて足が吹き飛ぶのを防いで、腕だけを戻して隆介を覆う。

それを見越していたのか、メルトの腕にはアリスが落とした錆びた剣が握られていた。


「だから、アイネを傷付けないで!」


「聖書バロン!」


「ミョルニル!」


思わず目を瞑ってしまう程の閃光が煌めき、状況がどうなったか分からなくなる。

何が起こって隆介を助けられたのか、アリスはどうなってメルトを止められたのか。


だが目の前には案じていた状況など無く、新たな疑問が生まれる存在があった。

顎先で短な綺麗な黒い髪の毛を揺らした少女が、鬼族の使う刀を振り上げて立っていた。


刀に弾かれた錆びた剣が少し離れた所で地面に刺さり、大きくスリットの入った着物の中から短い足が伸びて、メルトの勢いを完璧に相殺していた。

突然現れた少女もきょとんとしていて、そのままの体勢で暫く固まっていた。


「何じゃ貴様らは! 特に私の足に踏まれておるでかいの、徳川が輸入した生物か?」


「可愛い服だー! 綺麗だねー!」


「ちっさいな、可愛い和服ロリ来たー!」


「やっぱり素晴らしいですアイネさんの力は、突然ぴかって人が出て来てドラゴンの私の攻撃を弾いて……」


殺伐とした空気から一変して緊張感の無い空気に変わり、各々が思った事を勝手に話してめちゃくちゃになる。

少し本気になっていた自分が恥ずかしくて、なんて言うか……目が死ぬ。


「この着物は私が生地を選んだのだ、当然美しいに決まっているだろ。そこに可愛い私が着ているのだから尚更であろう」


そう言ってポーズを決めた少女は、私の方を見て眉を寄せる。

腹の次に胸に手を置き、一気に足に手を移動させてまた顔を見てくる。


「胸は皆無だがナイスプロポーションじゃな!」


「国に帰れ」


「私の物に何をしておるかちびっこいの」


出て来たもう一人のちびっこいミョルニルは、短い細腕で私を持ち上げて所有権を主張する。

誰か止めてくれないかと集まったドラゴンに視線を投げるが、目が合うと視線を逸らされる。


裏切り者めと思っていると、馬が地を蹴る音が多数聞こえて来た。

此処は帝国領だと言う事を忘れていた為、あんなに派手に立ち回ってしまった。


其の結果こうして居場所を晒すと言う結果になり、ドラゴンを敵視する帝国兵を導いてしまった。


「すまぬがメルトは皆を逃がしてほしい、アリスは先導を頼む。ナーガ、アリスと隆介を乗せてやってほしい。では頼んだぞ」


「アイネだけ置いてくのは嫌、アリスも戦う」


「先導が居なければ迷ってしまうじゃろ、足元が見えないのなら手と手を取って、皆が進む先の微かな光になってやれ」


「むぅ……いつもアイネだけ」


「すまぬなアリス。ほれ剣じゃ、大事に持っておれ」


ナーガに視線を送ってアリスと隆介を連れて行かせると、アリスが親にすがる子のように右手を伸ばしていたのが見えた。

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