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帰り道

「最近どうよ調子は?」

リョウは唐突にあやに話しかけた。時刻は午後四時になろうとしているころである。授業を終えた生徒たちが西校門から続々と出てくる。

「ビックリしたー。」

あやが飛び上がりそうになりながら答える。

「もうビックリさせないでよ。急にどうしたの。」

「いやー、特に理由はないよ。帰ろうとしたら目の前に君がいたからさ、最近どうなのかなって思ってさ」

リョウがおどけたように答える。

「そういえば浅井君てこっちだったっけ。東門からいつも帰ってなかった?」

あやがそう聞くとリョウはやれやれといった顔をして答えた。

「何言っているのさ、今日は保護者説明会があるから東門はつかえないって言ってたじゃないか、その保護者会を開く原因になったのは君なのに、まったく君は本当に人の話をきいてないな。」

リョウはそういうとケラけらと笑った。

あやはそんなに笑わないでもと思いながら、そういえばそんなこといってたなと思い出した。というか本人に直接そんなことをいうなんてこいつどうかしてるなとも思った。

そう今まさに行われている保護者会を開く原因になったのは彼女、遠藤あやなのである。その理由というのは、教師との不純異性交遊のうわさである。この町の南側にあるホテル街で、担任教師である青山幸雄とキスをしていたという垂れ込みが保護者会会長のもとにあったのだ。それで今日の朝、急きょ保護者説明会が開かれることになったのだった。

 今はその保護者会の真っ最中である。

「別に聞いてなかったわけじゃないわ。ただ興味がなかっただけ。」

あやは彼の言動にムッとするわけでもなく素直にしゃべった。リョウもリョウでペースを変えない

「興味がないということは、あのうわさは嘘と受け取ってもいいのかな?」

「嘘ではないわね。確かに昨日あの人とキスしたし、というか寝たしね。でも、学校で出回ってるような関係ではないかな。」

「つまり、体だけの関係ということかい?」

リョウの調子は変わらない。

「そうね。少なくても私はそうおもっていたわ、むこうがどうだったのかわしらないけど。」

「それはひどいなー。もしかしたらむこうは君と付き合ってるとおもってるかも知れないということだろ?」

リョウがひやかし口調で質問するも、あやは動じず続ける。

「そうね。でもしかたのないことじゃないかしら」

「どうして?」

「ほら、男って数回寝ただけで、自分のものだと勝手に思ってしまうじゃない。独占欲っていうのかしら、でもこっちは違う。ただ暇だっただけ、ただそれだけよ。」

あやは自分でも不思議になるくらい思っていることをそのまましゃべっていた。

「つまり、君はただのビッチで青山先生はただの馬鹿だったと?」

「さぁーね。」

その後少しの沈黙があったあと、リョウが口を開いた

「少し気になるんだけど、聞いてもいいかな?」

いちいち確認なんていままでしなかったのになとあやは少し気になったがすぐに答えた。

「いいわよ。」

リョウは少し微笑んだ。

「君たちが付き合ってないことはわかった。少なくとも君のほうがそうおもってないことは。でも、肝心なところは話してないよね。」

「肝心なところ?」

あやは考えた。

肝心なこととはなんだろう。聞かれた内容にはすべてちゃんと答えたはずだ。まさかこの男、行為の内容でも聞いてるんじゃないだろうか。そうだとしたら、なんてやつだ。たしかに変なやつだとは思っていたがここまでだとは思わなかった。


ははっ


そんな風にあやの思考が飛躍していると、リョウの笑い声がきこえた。あやがリョウのほうを見ると

「変なこと考えてたでしょ。すんごい顔してたよ。」

腹を抱えながらリョウはまだ笑っている。その顔をみながら、私はそんなに表情が顔に出るやつだったのかと少しショックだった。自分ではクールなタイプであるとおもっていたのに。

「そんな変なこと聞いてるわけじゃないよ。肝心なことっていうのは、君はどうなのかって事だよ。」

そんなあやに彼は笑いながら続ける。

「君がどう思っていようとも、最終的にはこんな状況になったわけだ。別に君を心配しているとかではないんだよ。はっきりいって自業自得だからね。そんなことはどうでもいい」

あやはリョウの雰囲気が少し変わっているように感じた。

「これも勘違いはしないで欲しいんだけど、別にこの騒動に対してのものでもないんだ。確かに、保護者会が開催されることで、僕は遠回りして帰ることになるわけだし、こうやって君と話しをすることでさらに遠回りしているわけだけど」

それは知らないとあやは思った。

「そんなこともどうでもいいんだ」

「じゃあ、何なのよ?」

あやは、少しいらいらしてきていた。

この男が何をいいたいのか薄々わかってきたからだ。つまり、この男が言いたいのは、あやが本当は青山に対して特別な感情を持っていたんではないかということだ。そんなものあるわけがない。今までの言葉が本当であり、それ以上の感情はないのだから。

「そんなにいらいらしないでよ。別に君を怒らせたいわけじゃないんだ。それに、多分、また勘違いしているよ」

リョウはそういい微笑む。

今度のは、自分でも顔に出ているであろうと思っていた。しかし、勘違いとは・・・、それなら本当に何が言いたいのだろうか?

あやは黙る。

「仕方ない。君に本当に聞きたいことを言うよ」

リョウがやれやれといった風なしぐさをして言う。やれやれはこっちだとあやは思いながらも、言葉にはしなかった。

「本当は君はこうなることを望んでいたんじゃないのかい?」

その言葉にあやの鼓動が早くなる。そして乙女らしかぬ脇汗がどっと出てくる。

だが、あやはそれを悟られないようにして言う。

「は? どういうことよ?」

「まあ、言いたくないならいいんだよ。今の君の反応で本当のことはわかったからさ」

「何が分かったって言うのよ?」

「別に君とは関係がないことさ。もし君が僕が誰かに何か話すんじゃないかと心配になっているなら、その心配はいらないよ。僕は誰にも話す気はないからさ」

こいつ、どこまで知っているのか・・・。

あやはこれからの言動をどうするか悩む。そんなあやを尻目に、リョウは関係なく続ける。

「ここからは僕の一人ごとだと思って聞いてもらえればいいんだけど、ある先生は、昔ある女子生徒と本当に交際をしていた。だが、その交際がばれそうになったときに、彼はあろうことかその女子生徒を退学させた。ある先生はその女子生徒に学校をやめえば結婚するといったそうだ。だから、女子生徒も自主退学を受け入れた。だけど、彼は女子生徒が学校を辞めたと同時に消えた。でも、彼は最後に女子生徒にある言葉を残していた。それは、必ず迎えにくるからと。女子生徒はそれを信じて本当のことは誰にも言わなかった。だけど、その女子生徒の妹はその教師を昔から不信に思っていた。妹だけはなんとなく気がついていたんだろうね。2人の禁断の関係を。そんなとき、引っ越した先で件の教師と出会う。そしてわかった。その先生は今までも生徒に手を出してきた最低な教師だと。だけど、彼は表だってそれがばれたことはない。手を出されたこれまでの女子生徒のほうも、多感な時期の恋愛だ。しかも禁断の愛。最後の彼からの言葉も相まって、問題が表面に現れることはなかった。そして、妹は復讐を決める。彼に真の断罪を下すために」

リョウはそこまで言うと、西日を見て目を細めた。

「何よそれ。何かの小説の話か何か?」

あやは笑う。

「かもね」

「この話で一つわからないことがあるんだ。どうして、その妹はそれを姉に教えて、親に言って、警察に言ったりしなかったのかなってね」

「私にはわかるわ」

リョウはあやを見る。続きを催促しているのだ。

「その先生に挫折感を与えたかったのよ。今まで多分、その先生が手を出した生徒は必ず彼の虜になっていた。だから、今更そのことがばれたところで、彼の社会的地位がなくなるだけ、彼の精神には対してダメージを与えられないかもしれない。なら、自分に夢中だと思っていた生徒が、自分をただの暇つぶしだとしか思っていなかったとしたら? しかも、今まで捨てる側だった自分が捨てられたとしたら? 普通の人ならそこまでのダメージにはならないかもしれないけど、プライドの高い人物は違う。必ず深い挫折感に見舞われる。それが目的よ。まあ、これは私の主観の話だから、その物語のその妹がどうなのかはしらないけどね」

「ふーん。そういうことなんだ」

そこでリョウは足を止めた。

「どうしたのよ?」

リョウは、三歩ほど先に止まったあやに近づく。


パン!!


一瞬、あやは何をされたのかわからなかった。だが、頬の痛みが次第に増すにつれて何をされたのかわかる。

顔面に平手打ちをされたのだ。しかも、かなりの威力で。あやの頭に血が上る。

「な、なにを――― 」

「そんなことのために、大切な体をあんなやつに差し出すな!! 自分の体を大切にしろ!!」

あやの言葉の数倍の大きさの声で、リョウは言う。

あやは、頭が真っ白になる。そして、視界がくらむ。

「うぐ、うぐっっぐっぐぐっぐっぐ」

あやの口から嗚咽が漏れる。気が付けば、あやは必死に涙を堪えていた。

なぜかはわからない。子供みたいに大声に驚いて泣いているわけではない。だが、なぜか感情の制御が利かない。

あやは自分の頭に手が乗るのを感じる。

「もういいんだよ。泣いても、いろんな思いを抱えてたんだろ? 吐き出さないと、人はつぶれてしまうからね」

そこからは、とめどなく、人目も憚らず涙が溢れ出した。



「落ち着いた?」

「面目ない」

あれから結構な時間たった。もう辺りは暗くなり、常夜灯が明かりをともしだしていた。

2人は今、川原にあるベンチに腰かけている。

あやは、もう一生分の涙を出し切ったのではないかというくらい泣いた。飛び込んだリョウの胸には、鼻水がどっしりと付いている。それをあやは見て、もう一度

「面目ない」

と言った。

リョウはそれに笑う。

すっきりした。あやは思った。そこで、思う。自分は誰かに、本当のことを知ってほしかったんだなと、それは自分では気が付かなかった自分の弱さだ。自分は強いと思っていた。今回の件も、回りからとやかく言われても、今回の自分の行動が姉の望みではなくても、親に自分の思いが伝わらなくてもいいと。だけど、どこかに頑張ったんだよと、誰かに知っていてほしかったんだろう。自分でも幼稚なものだとは思う。だが、それが真実だ。

「浅井君、一つ聞いてもいいかな?」

「何?」

「その、どうしていろいろと知っていたの?」

「はは、僕は別に何もしらないよ。ただの独り言だっていったろ? でもそうだな。僕の姉が、被害にあった女子生徒の親友だった。とかじゃないかな? だから、予備知識がいろいろとあった。まあ、理由はそれだけじゃないんだけど、そんな感じだよ」

「そうなんだ。浅井君! いろいろとありがとうね!」

あやは、頭を下げる。

「別にお礼を言われるようなことは何もしてないよ。これからどうするの?」

「本当のことを、言うよ。親にも、姉にも、怒られると思うけど、なんかそのほうがいい気がする」

「そう」

あやは、勢いよく立つ。

「じゃあ、また学校で!」

「うん。ばいばい、気をつけてね」

あやは、元気よくその場から、立ち去る。



僕はあやの背中が見えなくなるまで見る。

時間はまだ深くない。それに夜道とはいえ、彼女の家はすぐだ。まあ、大丈夫だろう。

「はああああああ」

長いため息が出る。

そう、本当にお礼を言われるようなことじゃない。今回、彼女をぶってしまったのはいけなかった。確かに、彼女のことを思ってのこともある。だけど、僕にあるひとつの気持ちだけで、あの行為には、嫉妬も含まれる。

ああ、本当に自分は醜いなあ。

僕が、彼女の行動を知ったのは、青山先生と彼女が、ホテルから出てくるのを見たことがきっかけだ。青山先生の悪い話に関しては姉から聞かされていた。だから、僕は2人のことを調べた。相手が彼女でなければそんなことはしなかっただろう。別にクラスメイトの一人が間違った行動をしたところで自分には関係がない。そして、彼女の普段の行動を見ていくうちにある疑問が浮かんだ。そして、彼女の姉のこと、だから、今回、彼女に話しかけた。真実が知りたくて・・・。

そのとき、見送ったはずの彼女が、見送った道から戻ってきた。

「浅井君!!」

僕はできるだけ平静を保ち返事をする。

「どうしたの?」

彼女は僕の目の前に立つ。


パチン!


「これでおあいこだね」

彼女はにっこりと笑い。立ち去っていった。


「ははっ」

小さな手のひらで叩かれた頬は別に痛くはなかった。

だけど、違う部分が痛い。

「ほんと、好きだなあ・・・」

僕の胸はただただ張り裂けそうに痛かった。


なんとなく書いた物語です。元々昔書いていたものを最後まで書いてみました。

なので、途中から少し感じが変わるかもしれません。すみません。

後、誤字脱字あれば申し訳ございません。

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