第1話
僕、大橋翔は今日初めて恋をしました。
僕は恋というものを初めてしました。暑さがだんだんと厳しくなってきた七月二十五日の昼下がりでした。
勉強、運動、芸術。何においても普通の成績しか取れなかった僕にとって恋愛なんておこがましいようなものだった。可愛い子だな。と思った人は、その容姿につりあっている人と一緒になるし、優しい人だと思った人もその魅力に惹かれた人と一緒になる。そうだ。僕なんかが贅沢を求めちゃいけないんだ。高校生だからって、マンガにあるような青春がおくれるのはごくわずかの人達の話。まして、恋愛なんてできるはずもない。
だって、僕は普通なのだから――
僕、大橋翔は何をやっても普通でとまってしまう高校一年生。
入学当初は、これからやってくるであろう青春というものに期待に胸をふくらませていたが、高校生になったからといって順風満帆に事が運ぶわけでもなく、ドキッとするハプニングもなく、普通に月日がたち、普通に一学期が終わろうとしている。
別に、友達がいないわけでもない。まあ、でも少ないかな。一人しかいないし。帰宅部の神田だ。僕と同じく本が好きで、たまに本の話をする。それに多分いじめにあっているわけでもない。ただただ、普通なだけだ。そんな僕だから休み時間は、たいてい本を読んでいる。誰にも見つからないようにひっそりと。最近のお気に入りの本は、特になんの特徴もない主人公の男が、可愛い女の子たちに囲まれ――といったよくある、ハーレムものだ。普通の主人公だったから憧れを抱いてしまったんだろう。
――あぁ、羨ましい......僕もこんな風に......
いや、何を考えてるんだ。自分にそんなうまい話――
これは、本だから。物語だから......
はぁと聞こえないようにため息をついて三回は読み返したであろうその本をカバンにしまって、いつものように今日も帰りに本屋に寄ろうか――
行く途中、かなり可愛い女の子が向こうから歩いてきた。身長は僕より少し低いくらい? だから、160あるかないかといったところ。少し、茶色がかった髪の毛はとても綺麗だ。美少女という感じ。
あれぐらい可愛い子にせまられて―――みたいな妄想を膨らませてしまう。
まあ、いいや。とりあえず本屋に入ろう。今日は僕の好きな作家の日向 歩さんの代表作。「君と見た星空は」の新刊の発売日。恋愛ものだけれど。これも。この本の発売は何ヶ月も前から楽しみにしていたんだ。一年に一度しか新刊がでないから発売の一ヶ月前くらいからソワソワしている。
「あ、あった」
興奮していたことも相まって、少し大きい声で言ってしまった。思ったり、感じたりしたことはすぐ口に出してしまう。僕の悪い癖だ。自分でも自覚している。いつもそうだ。
本をレジに通し、そそくさと逃げるように店を出る。
このまま、家に帰って一人で読もうか――
それとも、いつものあの場所か――
腕を組んで悩む。別に読む場所なんてどこでもいいのだろうけど、なるべく学校のクラスメートに会いたくない僕にとっては大事なことだ。
「決めた」
――やっぱり、いつもの場所だ。少し盛り上がっている岡?のような場所。人通りが少ない道の先にあるから、ほとんど人が来ない。来るといえば、野良猫くらいのものだ。それに、立て札もなにもないから名前なども知りようがない。
本屋から五百メートルくらいのところにあるその場所は、大きな木が目印だ。その木の下に三人ほど腰掛けられるベンチがある。別にお気に入りでも何でもないけれど、ここに来ると、街全体を見渡せるから自分がこの街の支配者になったような気分が味わえて少しだけ、心地いい――
――僕、中二病かな?
そんな中二理論はさておき、本を読もう。唯一無二の絶対に裏切らない友人。いや、もう親友かな。表紙をめくろうとしたその時だった―――
「あの.......」
透き通った綺麗なソプラノ声が聞こえた。
――思い返せば、この時にもうしていたのかもしれないな.......僕の初恋を――
(関係ないですが)この作品は、短く終わらせる予定です。