見つからない魔力溜り
ヨルゼ王国での一件も知らず、アルヴィスは精霊の森の広場で、胡座をかいて目を瞑っていた。
何故そんなことをしてるのか、それはシシリーがアルヴィスに与えた試験だった。
アルヴィスは精霊王である。その為に魔法はほぼ使い放題の様なものだ。むしろ魔法そのものが精霊のようなもの。
魔力の流れを感じるために、こうして何もせず。ただ自分と向き合い、魔力溜りを見つけるのが試験だとシシリーはアルヴィスに告げた。
試験と言うのはアルヴィスが一人前の精霊王になる為にいくつか行う試験のうちの一つで。これをこなせた場合は次の段階に移れるといったものだ。
「むむ…」
《アルヴィス様がんばって〜》《がんばれがんばれ》《ぐちゃぐちゃぁってなってるのだよー》
シノ、エノ、ラノに応援されながらもただ目を瞑り魔力を感じる練習。捗っているわけではなかったがアルヴィスは諦めるつもりはなく。シシリーも諦めるのはよしとしなかった。
シシリーは昼頃になると姿を消す。どこに行くかはアルヴィスには告げなかったし、アルヴィスも聞かなかった。
アルヴィスにとってシシリーは師匠であり、母であり、姉であり、友である。わざわざ食いついて何もかもを知りたいとはアルヴィスには思えなかった。
「んー、難しい…ねぇシノ、エノ、ラノ…もっとコツとかないの?」
《コツ? ぼっ! って感じのとこ!》《エノはよく分かんない。》《ラノはねぇー、ぐちゃぐちゃってしてる場所だったよー》
話にならない三人に困った様に「ありがとう、もうちょっと一人で頑張ってみる」とアルヴィスは告げて再び目を閉じた。
だが、夜になってもアルヴィスは見つけることは出来なかった。
アルヴィスはもう赤ん坊ではなくなった。その為に果物を口にする必要もなくなり、一日中特訓が出来る。出来るが、それが結果に繋がっているとは言えないだろう。
「シシリー…、僕だめだめなのかなぁ」
「初めはそんなもんだ、魔力溜りの感じ方は個人個人で変わる。色々試してみるしかないぞ」
シシリーの言葉にアルヴィスは「むむっ」っと変な顔をする。それを見たシシリーが頬を抓るまでがココ最近の流れだ。
アルヴィスは着々と成長している。
シシリーと出会ってから早二ヵ月。見た目の年齢は十歳ほどになっていた。それ程になればアルヴィスの可愛らしさはまだ残っていたが男らしい凛とした顔つきにもなってきていた。
だが生後二ヶ月なのも事実。
まだ難しいことは理解でにくい、純粋なアルヴィスがシシリーは心配で心配で仕方なかった。
水精霊王と言うだけでほかの精霊王よりも重要視される存在のアルヴィス。今のままアルヴィスが人間達の前に出ていけばすぐに捕まり戦争の為だけに利用されることになりかねないとシシリーは密かに悩んでいた。
だからこそ、一つ目の試験をまだクリア出来ないアルヴィスに少しだけシシリーはホッとしていた。
そんなシシリーの心情もしらず、アルヴィスはただ「むむむ」と唸り首を傾げる。