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精霊王になりまして  作者:
月と闇と綻び
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第1の集落 狼


 アルヴィス達一行が1つ目の集落にたどり着いたのはもう陽が落ちる寸前だった。狼の獣人達が家畜達を小屋に戻すことや、見回り用の松明に火をつけ、夕食の後片付けをしている頃だった。

 しっかりとマントを頭まで被り、ベルグの背から降りて見回りをしようとしてたであろう大柄な男の獣人へ声をかける。ピンと立った耳は少しアルヴィス達に向いていたので声をかける前にはもう気付いていただろうことは伺えた。


 「すみません、宿って借りれますか?」

 「人族か…? 随分大きな馬に跨ってたな、こんな時期に山に来るなんて何の用だ」

 「旅をしていてつい先日までアラーシュトに居たので次は山脈にと思いましてね」

 「丁寧な話し方だな…貴族じゃねぇだろーな? 面倒事はやめてくれよ?」

 「貴族では無いです、まだなったばかりですが一応冒険者をやってます」

 ギルドカード見ます?とアルヴィスが差し出せば直ぐに受け取り内容を確認し、直ぐに返した。


 「間違いねぇな、俺はロルフ、一応この村の警備を担当している、見ての通り種族は狼だな。」

 「ロルフさんですね、僕のことは好きに呼んでください」

 「そうか?んじゃアルヴィスと呼ばせてもらうぜ、どうも名前になんかつけるのはなれなくてな」


 黒毛の狼獣人ロルフは細身の筋肉質な大男だ。アルヴィスは見上げて会話をしなければならず少し首が痛いなと思いつつも話を続けることとなる。


 「それで宿だったな?わりぃがよ、ここに宿屋なんてもんはなくてな」

 「あー、そうなんですね…」

 「ただ、まぁ寝るくらいなら俺の家でもいいぞ、見回りを代わってからになるがな」


 歯を見せて笑うロルフを見て少し肩の上に止まるカナリアが震えた気がするなぁとアルヴィスは少し考えつつも、「ぜひお願いしたいです」と返答するのだった。


 ─────────獣人は特殊な存在である。虐げられた存在でありながら一族を優先し国を作らず、血を誇りとした。


 故に自分たちの住む集落に名前をつけることもなかった。自分たちの縄張りにわざわざ名前をつける必要もなかった。


 けれどそれぞれの種族には特殊な存在が生まれる。王種と呼ばれ、各種族のリーダーとなるために生まれ、そして王種が死ねばまた新たな王種が生まれる。


 これが魔族の特性とよく似ていた為、獣人は魔族と混同されていた時代があった。


 そんな王種という存在が獣人達が国を作れない理由でもある。王種は必ず一種族に一人、そしてリーダーとなることが決まっている。


 数多くある獣人の種族のそれぞれの王種がいる中でたった一人の王など選ぶことが出来ないから。


 そして目の前にいる男、ロルフは狼たちの王種だとアルヴィスは気づいていた。ロルフに声をかけたのもリーダーに声をかけた方が早いということもあるのだろう。


 (自分の家に招いたのも監視の意味合いだろうな、目の届く場所に置いて必要ならば殺すために)


 精霊王のアルヴィスにとって特に問題は無いが、きっとそれで命を落とした愚か者もいるだろう。


 (精霊王の僕でも多少なりとも気をつけた方がいいと思ってたんだけど…)


 「いやぁ、今日は楽ができていい日だっ」

 「…」

 『さっきまでカッコつけてたけどコイツ…』

 『ただ仕事をサボりたかっただけじゃ…』


 アルヴィスは折角なので見回りを手伝うと言ったことをすでに後悔していた。本来狼は警戒心が強いはずなのに酔っ払ってアルヴィスと肩を組んでいるこの男はまるでその様子が伺えない。

 鋭く光を宿していた瞳は酒で微睡み、ほっとけば今にでも眠ってしまいそうだった。


 くわえて。


 「また飲んだくれてやがる!仕事しろ仕事!」

 「あんた昨日もそれで居眠りしてたろ!族長の誇りは!?狼の気高き血を引く誇りは!?どこやったんだ言ってみやがれこの飲んだくれ!!」


 族長(リーダー)であるはずのロルフに対しての他の警備している面々の発言が、普段の行動を物語っていた。


 (僕声かける相手間違えた…)

 

 怖がって損した!とばかりにアルヴィスの肩に回されたロルフの腕を高速でカナリアがつつく。鍛えられた体にとって小鳥につつかれることは大したダメージにならないのかがはがは笑っていてそれがよりカナリアをイラつかせた。


 『こういう人の事クズって言うのよね』

 『だがこれでも一応王種だろ、明らかに他よりも体格が…それにさっきも集落のやつが族長と呼んでたからな』

 『王種って王になるような立派なヒトがなると思ってた…』

 『力は強いんだろう、力はな 』

 すぐ喧嘩していたカナリアとベルグでさえロルフに対して同じ意見らしい。けれど


 「肩に腕回すのやめてくれませんか…」

 「なんだよ?精霊王ってのは随分人見知りするやつが多いんだなぁ」


 そう言った発言にアルヴィス一行は硬直したのだった。

 

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