シシリーのはなし
◇
嘗て、世界に七種族の精霊たちが神様によって作られた。
火の精霊、木の精霊、風の精霊、水の精霊、土の精霊、光の精霊、闇の精霊。
そしてそれぞれの精霊をまとめるために神様によって役目と力を与えられた精霊の事を精霊王と名付けられた。
精霊王は七人揃わねばならない。
なぜなら精霊王達によってこの世界─ベルベナ─を支えているからだ。
精霊達は子をなせない、だからこそ全ては神の手によって作られる。
長きにわたり精霊王たちは力を合わせ世界を支えてきた、だが数年前から水の精霊王が生まれなくなっていた。
水の精霊王が産まれない理由は不明だが、水の精霊王が産まれないために水の精霊たちは消えていった。
精霊は精霊王無くは存在できないのだ。
水の精霊が消えると、水が出なくなった。土が乾くと作物はそだたない、いくら土の精霊や木の精霊が力を尽くそうとも、水がなければ作物は育たない。
やがて人々は飢えと渇きに襲われた。
そしてそれは戦争につながった。少ない水を求め、少ない食べ物を求めて、たくさんの血が流れた。
水の精霊王はいまも……
◇
「見つかってはいない」
シシリーがそのページを読み終えるとアルヴィスの顔をのぞき込む。
「……シシリーこれはほんとなの?」
「事実だ、何十年と水の精霊王は産まれなかった、だから精霊の森の外…人間達の土地では今も食料や水を欲して争っている」
その言葉にアルヴィスの目から涙がぽろりと零れた。その雫が地面へと染みるとそこに存在した花は励ますようにアルヴィスのそばに寄り添う。
「なんで、水の精霊王は産まれなかったの?」
「……さぁな、私にもわからん。」
アルヴィスから目を外し森へと目を向けるシシリーをアルヴィスは目で追った。
シシリーの横顔は美しかった。
「アヴィは求められて産まれたんだ、もしアヴィが死んでしまえば今度こそベルベナの水の精霊は完全に消えてしまうかもしれない。」
「……ラノも消えちゃうの?」
アルヴィスは心配そうに自分を見る精霊の中からいつも自分に優しくしてくれるラノを見る。ラノは困惑したように、けれど悲しそうに笑う。
《ラノもきえるわ、アルヴィス様がいないと生きれないの》
その言葉を聞いてアルヴィスはまた泣き出す。
「まったく、泣き虫だなアヴィは」
《優しいのよ!》《悲しいのよ》《辛いのよ》
三人の小さな手がアルヴィスの髪を優しくなでてアルヴィスは目を閉じた。
さわさわと聞こえる木々のざわめき。
楽しそうな精霊たちの声。
心配そうに触れるシシリーの手。
「シシリー、人間達は今どうしてるの?」
「……悲しんでいるだろうな」
「僕はどうすればいいの、シシリー」
目を開けて涙をぬぐってシシリーを見上げるアルヴィス。その頭を優しく撫でたシシリーは、ゆっくりと笑った。
「危ないことをせず、一人前になればいい 」
シシリーはそう言って、目を閉じた。




