一人と二匹でお使いをしよう よんっ
アラーシュト国内は活気づいていた。アルヴィスたちがベルグを迎えに行く際に歩いた時よりも多くの色んな店が店先で小さな露店を出して客を呼び込んでいる。大体を占めているのは飲食の店だろう。
美味しそうな果物から始まり、肉や、鼻腔を擽る香ばしい料理達。入国した時に比べ人の多さも全く異なっていた。だからこそ大きいベルグはよく目立つ。
「通りやすくていいけど…」
『ぐぬぅ、主に迷惑をおかけしてしまうとは… 』
『デカすぎるのよねー、この馬』
「君らってそんなに仲悪かったっけ?」
思わずアルヴィスが小さくツッコミを入れると二人は揃ってそっぽを向いた。
『別に!』
『なんでもありませぬ!』
「えぇ…そう…?」
そうならいいんだけどと、アルヴィスが呟きその話は終えてからはカナリアによる視界に入る店の説明を彼はじっと聞いていた。
『そこの店はお母さんがよく買いに行っててね、モーチのパイが絶品で…』
『あの店は───でね、お母さんとよく買いにきてたのっ』
『あ、ここ!ここの細工すごい丁寧で、お母さんにお父さんが贈ったネックレスを作ってくれたんだって』
話しの中に出てくる、母親。不思議と父親について語ることはなく、それに不自然さは感じられなかった。だが、母親について語る時、彼女の声は嬉しそうに弾んでいたものの、何処か寂しそうだった。
「お母さんって、どんな人だった?」
『え?』
「カナリアのお母さんってどんな人だったのかなって」
『…綺麗な人よ、私ね、使族だけどなり損ないだったの』
使族は天使が人と恋に落ちたことが始まりの種族。翼を持ち、飛ぶことが出来る美しい種族。
『飛ぶことが出来なかったのよ、翼も小さくて…だからお母さんとお父さん喧嘩ばかりして、別れちゃったの。それでもお母さんはカナリアなら大丈夫よって、その綺麗な翼で空を飛べるようになったら一番に教えてねって』
カナリアは幸か不幸か飛ぶことができるようになった。しかしそれは使族としてでは無く、ただの鳥として。
『お母さんは、すごく綺麗で頭が良くて……優しくて…自慢だったのよ』
「そっか」
『…あっ、ここ左に曲がったらすぐの所にウィドーがあるよ!』
先程とは異なり明るい声でアルヴィスに告げるカナリアをじっと見つめてからアルヴィスは左に曲がった。
浮かんだ疑問を消化することも無く。
ウィドーの戸を叩いた。
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ママルはウィドーからそう離れていない場所にあり、初めてのお使いは難なく終えた。転々の店主はそれを喜び感謝を伝えたがアルヴィスはそれに対し、ぎこちなく微笑むだけだった。
『ねぇ! どうかしたの?』
様子のおかしいアルヴィスにギルドへ案内をしていたカナリアが堪らず声をかける。ベルグは何も言わずアルヴィスの隣を歩いていた。
「どうかしたって?」
『そうよ、何だかおかしいわよ?』
ベルグは何も言わない。アルヴィスも何も言わない。カナリアだけが口を開く。込み上げた不安が消えなかった。
「カナリア、カナリアのお母さんは───」




