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精霊王になりまして  作者:
旅の始まり
41/55

一人と二匹でお使いをしよう にっ


 「ねぇカナリア。昨日よりなんか人多くない?」


 ベルグを迎えに馬小屋へと歩く道のりで不意にアルヴィスが問いかけるとカナリアは楽しげに、そして嬉げに答えを与える。


 『昨日青い光が地面から溢れて水精霊たちが戻ってきてくれたみたい。だから水の制限もなくなって自由に遊んだり騒いだりできるようになって日差しの下に出ようと思う人も増えたんだと思う』


 「そんなに変わるものなの?」


 『うーん、そりゃすぐに生活が変わるわけじゃないけど変わろうとしてるんじゃないかな、たぶん、みんな。』


 カナリアの目はどこか遠くを見つめる。アルヴィス以外に聞こえはしないその言葉は不思議と彼には理解出来た様で、すぐに口を(つぐ)んで人の中に紛れていく。


 しばらく歩けば入国してすぐ見た馬小屋が目に入る。丁度ベルグが餌をもらっているようで、たくさんの馬の中でも体躯のデカイ彼はよく目立った。それは暑っ苦しくフードを被ったままのアルヴィスも同じで、餌を食べ終えた彼は顔を上げてアルヴィスを見る。


 『おはよう、主よ。予定よりも早いお迎えですな』


 「うん、まぁ、予定外ではあるんだけどね。あ。お兄さん、ベルグ少し持ってくね。」


 「夕方には戻しに来てくだせぇ、夕飯やらなぁならんでなぁ」

 

 訛りのある返事をする彼は馬小屋をやっている男だ。若くはない年齢に痩せこけた体には翼が生えてはいない。使族は馬を乗ることには使わない。荷台や馬車を引く存在だと思っている。彼らには翼があり飛ぶことが出来る、だからこそ馬を世話することを覚えようとする者はいないのだ。使族には。彼は使族ではなく聞けば人族だという。肌の色は浅黒く、外で常に仕事をしているせいか服装も土やら泥やらで汚れきっている。

 

 笑い方も爽やかな笑みではない。訛りのある言葉にここらでは見ない人種ということもあり、彼はどうやら孤立気味であるらしい。顔には疲れが出ていて、アルヴィスの申し出に少しほっとしているようにも見えた。少し見渡せば確かに昨日よりも馬の数が増えている。おそらく他国から水を求めた者達が来ているのだろう。

 

 「わかった。餌は足りている?」


 「へぇ、足りてまさぁ、お客さんの馬はデケェ上によく食うんですなぁ、昨日は何でこんなぁ餌置いてくんか不思議だったけどもねぇ、今は納得してますわぁ、餌も水も足りてんでぇ、夕方に預けに来てくりゃぁ、特にいうこともありはしませんよぉ」

 

 「ん、わかった。あ、これさっき買ったんだけど食べる?」


 すっと魔法袋から出されたそれは赤々として丸いリゴの実だった。なんでも水精霊たちが帰ってきたせいかとってもとってもリゴの実が実るんだといった老婆が安売りに出していたのだ。それをカナリアのために買ったはいいが、買えばどんどんと追加でかごに入れられていくリゴの実たち。最初に頼んだのは五つだったものが、何故か倍にまでなったのには流石のアルヴィスも硬直した。


 その中の二つを彼へと渡したのだ。それを受け取った彼は目を見開いて受け取ると、口元を緩ませた。

 

 「懐かしぃもんでさぁ、昔こうしてリゴの実を旅人にもらったことがあんでぇ。…美味いねぇ」

 

 一つをすぐに噛み締めてゆるく笑った彼に見送られて、一人と二匹でお使いを続行するためにまずは依頼主がいる転転という店へと向かった。

 

 

 

 

 

続く


※リゴの実はリンゴの固いような果物で食べた感触はカリッというのが近いと想像して下されば良いかと。


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