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精霊王になりまして  作者:
旅の始まり
38/55

◆見たものと知らぬ方がいいこと

ミトの視点になります。




                  ◆




 ────それは。青や紺や翡翠色を雑多にして混ぜたような、そんな炎だった。



 目が見えなくなって、魂を見れるようになってからもう四百年は経とうとしている。沢山の魂を見ても吐き気をもよおすことはいつの間にかなくなった。非道な行いをした魂は淀んだ紫色をしていることが多かった。純新無垢な……主に子供はまっさらな楽しげな色をしていて。長く生きていれば、精霊王に会う事だってあった。ガリィーヴを登録したのも私だった。


 精霊王の魂は、どれも純粋な色をしていた。光ならば透き通るような琥珀色の炎。闇ならばトパーズの様な冷たくも力強い炎。木ならば優しいエメラルドの様な炎。火ならば業火のように赤く熱く揺らいだガーネットの様な炎。それぞれの本質を表すようなそんな色と特質があった……もちろん。精霊王にも核は存在する。それこそずっと見ていても飽きないような宝石の様に美しい核が。



 「姫様……」

 「恐怖を覚えたのは、何十年ぶりかしら。……下手したら百年以上前かもしれないわね」



 でも、アルヴィス様には、それは無かった。あるはずの物がなく、それでも魂の炎は消えていない。三つの魂を合わせたようなそんな炎はちゃんと燃えていた。……けれど。けれど。彼には()が無かった。最初は疑問だった、でも直ぐに好奇心が年甲斐もなく出てしまって、深く彼の魂へ触れてしまった。




 まるで、深海をのぞき込んでいるそんな気分だった。どこまでも冷たく、無慈悲で。反面命を育てる優しさを持つようなそんな深海。底のないそんな深海へずぶずぶと落ちてゆく……そんな感覚で。


 息をするのを一瞬やめてしまいそうになった。息をするのが場違い…いえ、間違えな気がして。冷たい程に美しく何も無い彼の魂はあまりに恐ろしく魅力的だった。ずっと見て触れて感じていたいと思うほどには───でも。それだけではなかった。



 “底”には誰かがいた。誰かが見ていた、彼のことを。深く沈み触れ合った私の魂なんて目もくれずただ、深い海の底から見上げたその二つの目は愛情だけしか無かった。最初は彼のことを思う亡き魂なのかと思った。でも違った、ずっと底で、彼女は息をしていた。ゆっくりと深く、空気なんてないその場所で。



 驚いたように固まった私にやっと気づいた彼女は私を睨みつけて私へと手を伸ばしてきて──そこで、強制的に意識を断ち切った。あれ以上あの場所にいればきっと私は彼女に食い殺されていただろう。久しく感じてなかった死の恐怖に深く溜息をつきたくなる。うんざりだった。もう覗くもんか……多分あれは……。


 「みーとーちゃーん」


 そこで声をかけられ背筋が凍る。思わず周りを見回して彼を見つけた。いつの間にか部屋の中にいたガリィーヴ()に、ルーが戦闘態勢を取り私を背に隠して後ずさる。ガリィーヴはそれを楽しげに見るだけで、(とが)めることもたしなめることもしなかった。



 「なんです……ガリィーヴあなたは前々から連絡を寄越すように──」

 「だめ、だよ?それ以上アルヴィスについて考えたら」


 その言葉にすべて理解した。触れてはいけない境界線に触れかけたことに。



 ぞわりと鳥肌が立つ。戸惑いと恐怖から吐き気さえもしそうだ。



 「そう、考えたらダメだよ。じゃないと僕…ううん、“僕ら”は全力で君を殺さなければ無くなるから」



 くすくすと笑うガリィーヴにホッと息をつく。どうやらまだ“大丈夫”だったようだ。


 「アルに感謝してね、あの子が途中で止めなければ君は死ぬことになっていたよ?」


 穏やかな魂に反した、威圧に絶句する。ガリィーヴはこんな性格だっただろうか? 元々契約者と精霊(同胞)以外には興味の無い男だったけれど、それでも私に対してはそれなりに付き合ってきてくれていたと思う。やっと自覚した。精霊王は人とは……生き物の枠ではない、それこそ神に近いのだと自覚した。震える手をさ迷わせてルーの手を強く握る。ルーはすぐに気づいて私を抱き上げてくれるが、変わらずガリィーヴを睨んでいるんだろう……ルーはそういう子だから。


 「謝罪します、そして魂に誓いますわ。───今後アルヴィス様について深く考えることも触れることも致しません……それでお許しいただける?」


 「うん、一度の失敗なら許してあげる。でも次はないよ? 次は殺すから。」

 「……肝に銘じます」


 「うんうん……そうしてくれると有難いなぁ。僕の数少ない友人を殺すのは流石にくるものがあるからね。じゃあ僕はこれで、突然お邪魔してごめんねー?」


 心にも思ってないことを……。そう考えていたのがわかったのか、ガリィーヴは最後に笑って部屋から立ち去る。恐らく転移魔法だろう。ホッと息をついてルーの体になだれこむ。


 「姫様」

 「ルー……今日は疲れたわ。ニーナには悪いけど先に帰って寝てしまいたい」

 「はい」


 告げるだけ告げてもう私は意識を手放した。……もう今日は人形のように眠りたい。魂を見るのをこんなに億劫に思ったのは……何年ぶりだろうか。






                             ◆



ガリィーヴ登場。

ガリィーヴの性格を分かっていただけたかと思います

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