核無き者
短めだけどキリが良いので
「三つの魂が合わさっているのが見えます……そして、失礼ながら水精霊王様……あなた一体誰に心を“奪われた”のです?」
「……え?」
奪われた心。合わさる三つの魂。アルヴィスは戸惑いどこか納得した。
「貴方様の魂には命の炎はあっても核がありません……それは“異常”であり、例え精霊王だとしてもありえない事です」
ミトの声もいつの間にか震えていた。“魂”を見ているのか、その顔色はどんどんと悪くなっていき。吐き気を抑えるかのように口へ震える手を当てた。彼女は見えていたのだろう。見えていて、その異常性に気づき恐れた。
「ありえない事なんです。核がないと言うのに炎だけがあるなんて……。人の魂は核と呼ばれる球体と命の炎が燃え上がることでやっと“生きれる”。核は心です、そしてそれがないということは気持ちを理解できない。悲しさ、愛しさ、哀れみ、嬉しさ、苦しさ、憎しみ。それらがあるにも関わらず貴方様には理解ができない……まるで、まるでこれじゃ貴方様は─────何かを模して作られた紛い物のよう」
合点の言ったような、変に高ぶった声で彼女は言い切った。紛い物。何かを模して。作られた。その言葉を聞いてもアルヴィスは何も言わなかった。ただ。何も言わず、そのラピスラズリの目で混乱し、理解したミトを見つめるだけだ。少しばかりの悲しさが乗ったその視線にミトは見えてなくとも気づき。口を閉じた。
「貴方様は、知っておられた?」
「ミト…さん。もういいです、理解したので」
最後の問いかけにもアルヴィスは返答しなかった。ただ深いため息をついて、そして微笑む。優しく柔らかなそんな笑みにミトはもう、何も言わなかった──いや、言ってはならないのだと理解した。アルヴィスの肩の上で眠っていたカナリアが目を覚ましたのを感じたから。
『んんぅ、あれ、いつのまに寝てたんだろ?』
「おはようカナリア。よく寝れた?」
『うん、寝れたよ。所で話し終わったの?』
「うん、終わったよ。ね? ミトさん 」
「は、はい。終わりました」
アルヴィスの問いかけにミトが答え終えると、ルーと呼ばれた男が部屋に戻ってくる。手には何やら木箱のようなものを持っていて、それを無言でミトへと差し出した。小さく咳をこぼしてからミトはそれを受け取り、アルヴィスへと手渡した。
「これが“アルヴィス”様の、ギルドカードです。身分証目的ということですから、一般の方と同じようにFランクからとなります。ランクをあげる場合は各ギルドにて依頼を受けてこなしてください……ではお気をつけて。」
木箱を受け取ってアルヴィスは部屋を出ていく。ルーもミトも、それは止めることは無かった。ドアを開ければ先ほどのカウンター裏へと出て、ニーナが気付いたようで手を振ってくれる。
「こんにちは、改めてよろしくねっ」
「こちらこそよろしく」
戸惑いながらも差し出された手を握り、握手する。心底手袋へ神印をしておいて良かったと軽く息を吐き、それをカナリアが首をかしげながら見上げる。その様子を見ていたほかの冒険者達は面白がって声を掛けていく。彼らの顔には笑みが浮かんでいて、本心で歓迎してるのだとよく理解出来た。
「これからよろしくお願いします……えっと、今日からFランクになりましたアルヴィスです」
軽く頭をさげれば返答として指笛とあいさつが返される。それに照れたように笑い返している……そんな様子を見届けてルーは少し隙間を開けていたドアを静かに……音もなく閉じたのだった。