盲目のエルフ
ニーナに案内されるままについて行くと、そこは面談室のようだった。魔石が壁各所に埋められていて鈍いオレンジ色の光を放っている。大きな机と椅子が六個向かい合うようにあるその部屋はちゃんと手入れされているらしく綺麗だった。
「座って。待ってて、ギルドマスターを連れてくるから」
そう言うと入ってきたドアと別のドアに入り二人(カナリアも人として数える)を置いて出ていった。……数分がたった頃だろうか、そのドアが開き、向こうから小さく幼いエルフの少女を横抱きにした長身のエルフの男性が入ってくる。対応する人が変わったことだけは分かったが、この二人のどちらがギルドマスターなのか、分からなかった。
「ルー、彼の向かいに座らせて」
「はい、姫様」
「姫様……?」
少女の目は閉じたまま、開かれてはいなかった。何故だろうか、それが普通だと、アルヴィスは感じ。目の前の席に座らされた小さな少女に戸惑った。その気配は今まで接したどんな人とも違ったのだ。そこでアルヴィスはカナリアに魔法を掛けた。眠りの魔法、術者が起きろと言うまでは起きないそんな魔法をかけられてカナリアはすぐに眠りについた。
それを感じ取ったのか、小さな少女は口を開いた。
「水精霊王様、私は魂読みの巫女と呼ばれていたものです。今はここ、冒険者ギルド天翼のギルドマスターをしております、如何用でございましょう?」
「魂読みの巫女……初めて聞いた。僕は眠りについた精霊達を目覚めさせる旅をしているんだ。でも、人とは国に入るために身分証を必要とするんだろう?僕はそれを作るためにここに来たんだ。精霊王だというのはできる限り黙ってて欲しいんだけど……」
「なるほど……では、そのように取り計りますわ、ルー。彼の出身国をテルナマリンにして登録してくださいな。」
ルーと呼ばれた男性エルフはあっさりと目を閉じたままの少女を置いて部屋を出て行った。その顔はどこまでも表情がなく、まるで人形のようだった。見てないにもかかわらずルーが部屋を出た途端に彼女は柔らかな微笑みを浮かべ口を開く。
「さて、私の名はミトと申します。ご質問がおありのようですね」
「分かるの?」
「ええ、そちらの女性を眠らせたからには彼女には精霊王だと言うことは黙っておられるご様子。彼女を起こす気はまだ無い様ですから。聞きたい事があると判断しました。」
「魂読みの巫女って…何?それと目をどうして開けないの?」
彼女は手で口元を隠してクスクスと楽しげに笑う。長い耳がぴくぴくと動き、それが彼女が面白がっていると思っていることをアルヴィスに気づかせた。
「魂読みの巫女は魂を見ることの出来る娘のことです。男性の場合は同じ読みで御子と呼びます。魂読みは世界に数人いると言われており、私にも人数は分かりませんが……私達魂読みは総じて目がみえません。魂とは太陽のようなもの、それを直視出来てしまう魂読みの目は焼き切れてしまう。目を開けないのは、白く濁った目の機能を失った物を人様に見せるのは余りにも見苦しく感じるから……ですわ」
「でも、君はカナリアのことが分かったろ? 僕は何も言ってないのに」
「魂を見たのです。魂は生きるもの全てに存在するもの。生きていないものを見れなくとも生きるもの全てならば魂を見ることができますので。……そういった意味ならば見えるとも言えますかね?」
人に見えるものが見えず……人が見れぬものが見える。それが魂読みと呼ばれる者。そこで、アルヴィスの好奇心が沸いた。
「僕の魂はどんなのなの?」
疑問にミトは笑を消してピタリと動きを止める。そして、眉間にシワを寄せて首をかしげた。少しの沈黙が落ちて、軈てそれは終わる。───ミトによってもたされた答えで。
「三つの魂が合わさっているのが見えます……そして、失礼ながら水精霊王様……あなた一体誰に心を“奪われた”のです?」
「……え?」
ガタンと何かが音を立てて外れた音がどこか遠くで聞こえる。まるでずっと前からそう決まっていたかのように。
怪訝そうなミトの顔は何故か強ばっているようにも見えた。




