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精霊王になりまして  作者:
旅の始まり
32/55

◆狂気



                ◆


 ああ、声がする。あの人の声がする。


 温かく優しく悲しい声がする。


 心がなくて辛い? 疑問ばかり浮かぶ自分の体が怖い? 積まれてく責任から逃げたい?



 逃げていいのよ。叫んでいいのよ。怖がっていいのよ。



 「あなたは一人にはならないわ……どんなあなたも私は愛するのだから」



 だから、早く迎えに来てちょうだい。早くその綺麗なあなたの顔をあなたの魂をみたいのよ。


 大丈夫あなたが求めるものは全て私が与えるわ。悲しみも苦しみも恨みも妬みも嫉妬も───愛情も全部。



 あなたが愛おしい。あなたの全てが愛おしいのよ。当たり前よね? あなたは私がいないと何も出来ないダメな人だから。寂しくてすぐ泣いてしまう赤子のように純粋で真白で……残酷なのだから。



 大丈夫、どんなあなたも愛するわ。どんなあなたも受け入れるわ。


 たとえあなたが私を殺すために会いに来るとしてもその殺意()も受け入れるのよ。愛しい愛しい人。私だけの可愛い人。



 ──愚か だ──


 「そうかしら? 私はただ愛するだけよ。」


 あの人の髪も瞳も体も思いも心も感情もすべて私のものよ。誰にもあげないわ。一度は“奪われてしまった”けれど。二度はないの。ずーっとずーっと待ってる。そうすればあの人は愛しに来てくれる。あの人は私に会わねばならないの。もう一度出会ってそして、また恋から始めるのよ。



 ──奪ったのはお前だろうにね──



 「うるっさいのよ!奪ったのは私じゃない…私じゃないわ! あなたよ! あなたが私から奪った! 愛しい愛しいあの人を! ようやく出会えたあの人を!」


 ああ、忌々しい。なんて憎らしいの。なんて馬鹿なの。……でもいいわ。許してあげる、あの人の優しい声が聞こえたから。あの人の狂おしいほどの愛を思い出したから。


 ──二度は許さないよ──



 「許さないのはこちらも同じ。あなたが邪魔をするなら。仕方ないからあなたを殺してさしあげるわ」


 本当はあの人以外に触れたくなんてないけれど。あの人と存分に愛し合うために邪魔をするならその邪魔は消さなければならないわよね? あの人は優しいからきっと邪魔者を気にして私を愛するのを躊躇うかもしれない。


 ──悔いな。……君の愛したあの子はもういない──



 「いいえ! いるのよ! そして私を愛しにここへ来るの! それがあの人の運命────そして私の、運命なんだから」


 ──運命は変えられた。あの子が死んだその瞬間に──


 運命は変えられた? 長く存在しすぎてとうとうイカれたの? 運命は変わらない、だから運命だというのよ。



 ──あの子は死んで。魂だけが残り生まれ変わった。本質は同じでも……別の存在となった。我が子に手を出すならば君は誰にも愛されず何人にも見つけてもらえぬ、仮初の無ではなく、本当の無へと落とすことになるよ──



 「我が子? ふざけないでよ。 あの人は私と愛し合うために生まれた。私の子、私だけの子よ」


 ──運命は変わらない。だけど、君の愛したあの子はもう既に死んだ。君との運命はもう切れた。後悔し心を入れ替えるなら良。それでも受け入れずまだ足掻くというのなら相応の罰が下ると思いな──





 「いいえ、罰が下るのはあなたよ……ゼルヴ」

 ──君はどこまで罪深いんだ……堕ちるところまで堕ちる気か。ヴァネッサ──


 あの人があの人の為ならば私はどこまでだって堕ちていくわ。だってあの人を誰も愛さなかった、だから私が愛するのなんどだって。





                   ◆




次の話でやっとアルヴィス達はアラーシュトに入国します。おたのしみに

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