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精霊王になりまして  作者:
旅の始まり
31/55

◆悪夢と涙


                    ◆




 ただ、見てみたかったの。見た事の無い外が。水の足りないこの国から出て水が戻りつつある、テルナマリンへ行って、沢山の水をたくさんの笑顔を見たくて。

 「お母さん!ね!テルナマリンに行ってみようよ、水精霊王様が立ち寄ってくれたんだって!テルナマリンならたくさんの水飲めるよ」


 お母さんにたくさんの笑顔を与えたくて。私は珍しい金色の翼を持っているんだけど、私の翼はまだ小さくて飛ぶのには十分じゃない。だから歩いて行かないといけないけれど。きっと大丈夫だと、そう思って、だから、お母さんの手を引いて家を出た。



 「カナリア、そんなに急いだら喉が渇いて大変よ?お水もう無いんだから」


 柔らかに微笑んで馬に乗るお母さんを見上げて笑う。一頭の馬を順番に乗り少し遠い隣の国へ。水の戻ったテルナマリンへ。



 ──だめ! 行かないで


 「大丈夫よ、テルナマリンでいっぱい飲めるんだから」


 ──戻って! これ以上進んだらだめ!


 そう思うのに私の足は止まらない。笑顔も消えない。当たり前だ、これは夢だと思う。きっと後悔が見せる夢だ。



 気がつけば私は鳥になってしまっていた。小さな体。その体を強くつかむ知らない男。目の前で倒れるお母さんに必死に声をかけるのに声は届かない。真っ赤な真っ赤な血が綺麗なお母さんの白い翼を赤く染め上げて。


 「チッ、お前ら殺すなって言ったろ。」

 「すいやせん、抵抗が激しかったんで」


 倒れたままのお母さん。

 なんどもなんども鳴いて鳴いて


 でも、声は届かなくて。


 「カナ、リア……逃げて、今なら飛べるでしょう、どこまでも遠くへ遠くへ飛びなさい……」


 その声に最初は反抗しようとした。死にゆくお母さんを置いてなんて行けなくて。でも、でもお母さんの目がとても優しかったから。だから、必死に男の手に食いついた。投げ出される体、思わず止まりかけたけど、でも翼を広げて羽ばたいた。どこまでもどこまでも遠くへ、逃げるために。



 いつの間にか涙が出た。喉が渇いて……それで。


 アルヴィスさんを見つけた。フードを深くかぶってなぜか青毛の馬へ話しかけるアルヴィスさんを。ぐっと伸ばされた腕に思わず止まればフードの下から見える柔らかなラピスラズリの目はどこかお母さんに似ていて。




 ──だから。この人に助けを求めたんだわ。きっと。



 そこで目が覚める。焚き火からぱちぱちと音が聞こえる。いつの間にか夜で、少しさきに見慣れていたアラーシュトの壁が見える。近くで青毛の馬……ベルグが寝ていて、向かい側ではアルヴィスさんが焚き火をいじっていた。


 「起きたんだ、もっと寝てなくて平気?」

 『うん、結構寝たよ』

 「そっか、あ、豆なら食べれるかな」



 差し出された豆を啄む。ふと、お母さんの言葉を思い出した。


 ──「金糸雀(カナリア)……綺麗な綺麗な私の子。ちゃんと大きくなって飛んでちょうだいね、貴女の綺麗な金色の翼が空を飛ぶのを、楽しみにしているから」──


 ぽろり。涙が落ちて、それを見たアルヴィスさんは驚く。子供の頃にお母さんはそう言って私に歳の数だけ豆をくれて。その豆がたまらなく好きだった。優しいお母さんの笑顔が好きで好きで……だから。涙が止まらなくなるの。





 もう、お母さんには会えない。



 もう、お淑やかにしなさいと怒ってもらえない。



 本当の姿で空を飛ぶのも見て、もらうことも出来ない。





 「カナリア……?」


 『ごめんなさい…ごめんなさいっ』


 ああ、もう私は一人なのだ。お母さんすらもう死んでしまって。勝手にアルヴィスさんに泣き付いて。いつか人に戻れたその時は。



 「大丈夫だよ、カナリア。僕が戻してあげるから 」

 この人からも離れなければならない。私はそれに耐えられるのだろうか。





 もう一度羽ばたいていきたいと思えるのだろうか。お母さんのいなくなったこの空を。







                   ◆

旅の仲間が増えました

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