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精霊王になりまして  作者:
旅の始まり
27/55

真なる名は


 

 「ふぅ、行き先は決まったけど…」

 

 フードをかぶり直してから店を出てアルヴィスは首を傾げる。確かに行き先は決まったが、その行き方は決まってない。徒歩で行くか馬で行くかはたまた他の方法か。

 

 「とりあえず…手袋買おう」

 精霊王は人には触れられない。但しある魔法を施した物を介してならば人にも触れることが出来るし触れられることが出来る。その原理は分かっていないものの、アルヴィスはその魔法についても知っていた。

 

 

 適当な店に入り革手袋を手にすると会計をする。店の中に入ってもフードを取らないアルヴィスを店員は(いぶか)しげに見るも、本人は気にする素振りも見せない。

 

 「…銀貨一枚です」

 「はい」

 「丁度ですね」

 

 関わらない方がいいと思ったのか店員はそそくさとお金をしまい込み、手袋をアルヴィスの方へ差し出す。

 それを受け取って店を出ていくアルヴィスの背中に「またのご利用を…」と小さく店員は声を掛ける。

 

 

 「フードを被ってたらやっぱり怪しまれるんだなぁ。でも取るわけにも行かないし…」

 

 適当な裏路地に入りアルヴィスは買った手袋を取り出すと裏返す。少しごわついているそこに右手の人差し指を当てて小さく詠唱を施す。

 

 

 「《触れることの許可を罪も全ても覚悟し、印を証と刻め。母であり父である神に願い許しをここに……〈印神(いんじ)〉》」

 

 人の聞き取れない声で、アルヴィスが詠唱を終わらすと手袋の裏地に小さな紋章が浮かぶ。それを確認した後にアルヴィスは手袋を元に戻して手にはめる。

 

 「うん、良さそう。んー髪色変えられる魔法とかあればいいのになぁ…そしたらフードを被る必要ないのに」

 

 髪色を変えたところでアルヴィスの持つ独特の雰囲気。それをナシにしても美しい容貌をしているのだから目立つのには変わりないのだが…何しろアルヴィスである。見た目に興味が無いと言うより大差内容に見えるのだ。鼻があり耳があり目があり眉があり口があり…それを美しいとは思わない。種族によってその造形や色が変動するのみだと思っているのだ。

 

 

 だからこそアルヴィスは特に自分が美しい容姿だと自覚していない。人の名を覚えるのも気配と声で覚えている節があり、その点やはり人とは異なっていると言える。

 

 

 「…奴隷か」

 

 物の様に扱われる人はアルヴィスの周りにはいなかった。死にかけた人もいたが、それでも物の様に扱われることは無く…サリィの言うような奴隷がいまいち理解出来なかった。

 

 「とりあえず馬でも買おうかな…? 」

 気を取り直したように店が出ている広場を歩き回るアルヴィス。しばらく歩けば、馬屋が見えてくる。馬屋からは何頭か馬の姿が見えており、どれも少し痩せている気がした。

 

 「これはこれはそこのフードの旅人さん、馬をご所望(しょもう)ですか?」

 馬を見ていたのに気づいた馬屋の店主がヘラヘラとアルヴィスに歩み寄る。そして手につけた手袋を見定めてその笑みを一層深くする。

 

 「私の店の馬はですね、少ない水で遠くまで行ける利点がありまして、旅人にも人気なのですよ」

 

 ドワーフの国であるテルナマリンでは珍しい人の店主はヘラヘラと笑いながら続ける。

 

 「特にあの馬!美しい青毛でしょう!力も強く馬車を引くのも通常二頭いる所が一頭で済むのです!一頭分の水と餌で二頭分の働きをする馬です!どうですか?買う気になりませんか?」

 

 グイグイと顔を近づけて押し売りしてくる店主に少し引きながらもアルヴィスは言われた青毛の馬を見る。

 

 

 「ヒヒィーン」 

 「そういえば、馬を見るのは初めてだな。」

 

 誘われる様にアルヴィスが馬の首を撫でると、アルヴィスに声がかけられる。

 

 『この力…もしや貴方様は精霊王ですか?』

 

 「……なぜ知って…ってあれ?」

 「? どうかしました?」

 

 アルヴィスは最初店主が話しかけていると思って声に出して、店主を見るが、店主は首をかしげているだけで反応はない。精霊王だと分かったならばこの店主ならもっと違った反応をする気がするのだ。

 

 「……もしかして、君?」

 思い至って、青毛の馬を見ると馬は「ブルルン」と鼻を鳴らす。その目は優しげで、他の馬とは違い知性に溢れている。

 

 『はい、私は貴方様が撫でてくださっている者です』

 驚き唖然としているアルヴィスに自分から鼻を押し付ける馬を見て店主は「ベルグが人に自分から鼻を押し付けるなんて…」と驚いていた。人馴れしていない馬を売ろうとしていたのか?と(いささ)か不安にさせるような言動であった。

 

 「ベルグって言うのか」

 『はい、そう名付けられましたが、真名は決まっておりません…それとあまり私と話すと店主が怪しむ可能性がありますし…お金に余裕があるなら是非貴方様に買っていただきたいのですが』

 

 それもそうかとアルヴィスは頷くと店主を見て値段を聞く。流石に一頭で二体の役目をこなせる力と忍耐力もあって水の処理が少なく済む馬…その上青毛な事もあってベルグの値段は金十貨枚という高さだった。

 

 「これで」

 「はい、たしかに。」

 

 店主から鞍などもおまけに買って付けてもらうとアルヴィスはさっさとベルグの綱を引いてから路地裏へと入っていく。

 

 そして人が居ないことを確認するとアルヴィスはベルグに問いかける。

 

 「それで?真名って?」

 『私は馬屋にはいたのですが…一応魔物でして、自分が(あるじ)と決めた存在に魔力を混ぜてもらいつつ名付けてもらった名を真名というのです。そして力ないもの…例えば先程の人間に名乗られたのは仮名と呼ばれているのです、ベルグは仮の名前なのですが……また気にっています。』

 

 ベルグはそう言うと樋爪(ひづめ)を鳴らした。それを見てからアルヴィスは数回うなづく。

 

 「要はベルグの名が気にっているが名付け親が力がなかったために真名にはなってないってこと?じゃあ僕が名付けたら真名になる?それから名付けたらベルグは僕の旅に付き合ってくれるかな?」

 

 『精霊王様ならば真名を付けるのには充分のお力があるでしょう。名付けていただけるのならばどこまでも貴方様の足となる所存。』

 

 アルヴィスは少し考えてからうなづいて「君の真名は《ベルグニル》」と告げる。少しの光がベルグに(まと)わり付くとすぐにそれは晴れ、そこには先程よりも肉付きがガッシリして大きくなったベルグがいた。

 

 『感謝します…主よ』

 「ベルグニル……普段の呼び名をベルグにすれば問題ないと思うんだよね、僕はアルヴィス・サークフェイス…水精霊王をしているよ」

 『なんと、主がそうでしたか…では旅というのも?』

 「うん、まあ、水精霊達を起こしてまわってるんだ」

 

 そう告げるとベルグは興奮した様に樋爪と鼻をならす。それをアルヴィスがなだめれば黒の鋭い目が軽く細められる気がする。

 

 『なんとも光栄なこと…!喜んでお力添えをする所存です!』

 

 アルヴィスは困った様にベルグを見ながら、ため息をこぼし。「そろそろ乗っていいかな」と問いかける。ベルグは思い出したかのように乗りやすい高さに足を折る。

 

 

 「ありがとう…これからよろしくベルグ」

 『宜しくお願いします…主よ』

 

 



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