◆サリィの忠告と次の目的地
通された部屋で椅子に座ると、サリィがお茶をくれる。渋い茶色いお茶はどうやら烏龍茶と言うらしい。たしかガリィーヴが好きだったはずだ。
「それで、アルくんが一人で来るなんてどうしたの?ガリィならいないけど……」
「いや、今日はサリィに会いに来たんだ」
「私に…?」
困った様にサリィは僕の前の椅子に腰掛けてじっと僕の目を見てくる。気まずさにフードを引っ張って視線から逃れようとした…けどそれはサリィにフードを剥がされることで叶わなかった。
「どうしたの?」
「……僕は水精霊王だから、色々な土地を回って水精霊達を目覚めさせようと旅をしてるんだ」
「だから今日一人だったんだね。」
「うん、それで…」
言葉が詰まってサリィを見れば、サリィは「言ってみて、私に用があったんでしょう?」と僕の手をぎゅっと握ってくる。
……精霊王に触れれる存在それが契約者。
「僕の契約者も探そうと思ってるんだ…それと一番水に困ってる国とか知ってたら教えてほしいなって…」
すると、サリィは意外そうな顔をする。僕が首を傾げれば「あっ、ごめんね、ビックリしちゃって……」と小さな手が僕の頭を撫でてくれる。
「精霊王ってみんな人に無関心だから…何だか…ふふっ、そうね。困ってる国かぁ」
「……?」
クスクスとサリィは笑うと何処からか国の名前が書かれた紙をもってくる。地図何てのは各国の国王が管理するものだとされてて一般的に見ることは出来ない。だから、名前が書かれているだけのものを一般の人は地名書と呼んでいる。
「テルナマリンの隣は三種類ある一つは山脈ね、獣人、竜人、竜族、魔物とかそこら辺がいると思うの。山な事もあって植物は一応あるみたい、気温が下がることで草木が凍る時、それを砕いて口の中に含み水分を得ると聞いたことがある…まあ人里離れているからね、ここに行くかどうかはアルくん次第よ」
国名はないんだ。にしても山か…山なら沢山の水精霊眠ってそうな気がするな。
「次にガルバラ…ここは正直分からないの。先代水精霊王が亡くなってから一切の貿易を遮断している国でね、有名なのは高い壁かしら。とにかく高くて国自体が要塞みたいなものね」
ガルバラって名前も初めて聞いたな。貿易を遮断しているって、ちゃんと国として機能できてるんだろうか?
「最後の一つなんだけど…使族の国アラーシュトね。ここがわかる部分ではテルナマリンの近くで一番水に困ってると思うわ。」
アラーシュト国…ここも行ったことないけど。使族か、たしかシュバルツによく似た種族だけど翼があるんだっけ。
「ねぇアルくん旅をする時絶対に気をつけてほしい国があるの。」
「ん?」
「国の名前は…デンダラ…奴隷制度がある国で、珍しい髪色はすぐに人狩りにあったり…とにかく嫌な国。代々水精霊王様の契約者は白い髪をしていると言うし…もしこの国で産まれていたとしたら出会うのは大変ね」
僕の契約者って白い髪をしてるのか。シュバルツは銀だし、白髪なんて見たことないや。
「……って、なに?奴隷って」
「人はね自分のやりたくないことをやらせるために自分よりも下の者を使う事を覚えてしまった人達がいるの、それがデンダラという国の人達で、使われる人…命令を断ることが許されない人とも扱われないような存在を奴隷と言うのよ」
人とも扱われないような…存在?人なのに?
「もし、僕の契約者がその国で産まれてたら……?」
「白い髪はデンダラで忌まれてるものなの。他人の幸福を奪う色とされてよく思われない…でも珍しい色だから高く売れる…。そんな訳だから白い髪の契約者なんて生まれでもしたら捕まえられて売られるの…売られたら何が待ってるかわからないし…もし心が壊れたりしていたら…ううん、きっとそんなことになってないわよね。とにかくアルくんはデンダラの人達に気をつけること!」
サリィはそう言うと立ち上がって工房の方へ入っていく。慌てて追いかければ作業用の上着を着て作業台に座ってしまっていた。
「…サリィ?」
「奴隷商人を見たら絶対にフードを外したらダメよ。」
僕の方を振り返らずサリィは言うだけで、心做しかその背中は…震えている気がした。
「……今日はありがとう、また来るね」
「ええ、またね。アルくん」
目を合わせることなく、僕はサヴィガを出る。とりあえず次の目的地はアラーシュトかな。使族に契約者が居れば楽なんだけどなぁ……。
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