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精霊王になりまして  作者:
旅の始まり
25/55

◆予定外なお客


        ◆

 

 何度か自分の成長を感じることがある。

 顔を上げる時、遠かった木の葉が近く感じ小さかった時のことが懐かしい。つい最近の事だから思い出すのも容易(たやす)いのもあると思うけど。

 

 「おにーさんは、傭兵さん?冒険者さん?」

 

 そして子供と接する時。自分が大きいんだと自覚する。生きた年月こそすれば僕はこの子の方か上だろうなぁ……。

 

 「ううん、ただの旅人だよ。君は?」

 

 「ミーチェはね、お花屋さん。おにーさん、お花はいりませんか?」

 

 小さな手で籠を抱きしめて僕を見上げる目は綺麗な緑色。夏の若葉の様なそんな瞳がぱちぱちと瞬きをしつつ見上げてくる。

 

 「お花?」

 「うん、お花。ほら見て綺麗でしょ」

 

 見せられた花の色は可愛らしいオレンジ色で、たまに紫色や赤色の鮮やかな花もあるみたいだ。

 

 「可愛いね」

 「そうでしょ、頑張ってつんだんだ」

 

 花を褒められて照れているのか小さなお花屋さんはその柔らかそうな耳をぴくぴくとさせた上にスカートの下でゆっくりと揺れる尻尾が愛らしい。

 

 恐らく猫の獣人の女の子は僕にその花を向けたままじっと見つめてくる。小さくてもちゃんと生きている、こうして顔色を(うかが)って売ることで花を買わせる気にさせるんだろうな。

 

 「うん、買おう。幾らかな?」

 「やった!んとねんとねお花のお値段決まってないの、えっと、あなたの慈愛と優しさにおまかせします?って言うんだよ。」

 

 「えっへん」と胸を張る女の子に成程と感心する。値段を決めずに幼い子に花を持たせ買う気にさせる。そして慈愛と優しさに任せることで通常の花を買う時よりも高く払うお客がいるんだろうな。なかなか理にかなった商売だ。

 

 

 「じゃあこれくらいでどうかなお花屋さん」

 

 「えっと…えっと……銀貨……?」


 ぱちぱちと瞬きをしながら手のひらの上に置かれた銀色のコインを見てから慌てて僕を見上げる女の子。

 

 「……貴族様なの?」 

 

 怯えたように僕の顔色を見てくる。さっきまでピンと立っていた耳はペタンとしているし尻尾もぷるぷると震えながら脚の間に入ってしまっている。

 

 「いや、違うよ。」

 

 困ったように笑うけど、どうやらまだ警戒されているらしい。

 

 「そうだなぁ…困った……ねぇ小さなお花屋さん頼み事していいかな」

 

 「頼み、ごと?」


 「僕はこの街に来たのは久しぶりなんだ。知り合いのお店に行きたいんだけど、その場所を忘れちゃってね?お花をその人に渡したいんだ。僕の手からよりも可愛い君の手からの方がきっと喜んでくれると思うんだけど……どうかな?」 

 

 しゃがんで目線を合わせるように言えば目をキラキラと輝かせて「うん!」と笑ってくれる。どうやら何とかなったみたいだ。

 

 まあ、場所は知ってるけど花を渡してほしいのも事実だから後腐れなくなるためには丁度いいかもしれない、言い訳だ。

 

 「あのね、お店の名前おしえて」

 

 「うん、お店の名前はサヴィガって言うんだけど分かるかな」

 

 「分かるよ!ドワーフとエルフのおねーちゃんのお店!」

 

 「うん、そのお姉ちゃんにお花を渡しに行くんだよ」

 

 どうやらサリィとこの子は顔を合わせたことがあるらしい。店の場所を知らないってことは避けられたし。問題なさそうだな。

 

 にしてもこの街に来たのがつい最近みたいだけど前より賑わってるように見える。

 

 やっぱり水精霊を起こしてからしばらく時間はかかるけど何とかなってるみたいだ。

 

 

 彼女(ミーチェ)についていきながら街並みを見る。前よりも心做しか活気に溢れているように感じる。テルナマリンでこうなのだから、ヨルゼはもう少し活気づいてるかもな。

 

 

 「おにーさんここだよ!」


 物思いに(ふけ)っていると高い声に引き戻される。

 

 「え、あ。ホントだ」

 「ねぇねぇ?おにーさんミーチェは何の花を渡せばいいのー?」

 

 気を抜いていたから服を掴まれてたことに気づかなかった。……危ないな。肌に触られなくてよかった。今度手袋でも買おうかな。


 「うん、ミーチェちゃんが選んでくれると嬉しいかな」

 「分かった!飛びっきりの花を渡すね!えっとサリィおねーちゃん!居ますかぁ!」


 「はいはい、なんで……あら、ミーチェちゃんじゃないこんにちは。今日は何の用?」

 「お仕事なんだー!はいお花!」 

 

 「えっ?お花?」慌てて受け取るサリィに笑いながら声をかければ「あっ、アルくんじゃない、……ああそういう事ね」と納得した様にミーチェの頭を優しく撫で始める。その表情は柔らかくて身長が低い彼女だけど、ちゃんとお姉ちゃんって感じがするのは確かだ。

 

 「ありがとうね、綺麗なお花」

 「えへへ!またのごりょ…ご利用をお待ちしてる?の!」

 

 綺麗な笑を浮かべてミーチェは去っていく。それを見送ってから店のドアを開けて中へ招かれる。

 

 「ちょっと予想外なお客様だけど……歓迎するわ。いらっしゃいませアルくん」

 

 

次回もアルヴィス視点です。

さて、何故アルヴィスはサリィの元へやって来たんでしょう。


テルナマリンの硬貨は

マリン白金貨

マリン白銀貨

マリン金貨

マリン銀貨

マリン銅貨

マリン鉄貨

になります。


平民……つまり一般人が目に出来るのは銅貨が基本で、一般的な働き者の家の一ヶ月の給料は銅貨七枚になります。つまりミーチェに渡された銀貨は大金という訳です。

ではこの辺で。



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