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精霊王になりまして  作者:
旅の始まり
22/55

焼け野原の老人

 

 

 焼け野原に高いオカリナの音が響く。オカリナを吹く青年は目を見張るほど見事な勿忘草色の髪をしていて、伏せられた(まぶた)に生える睫毛は長く、やはり美しい。

 

 青年と言ってもまだ若い彼は瞼をあげると周りを見回して微笑む。

 

 「さぁ、みんな。迎えに来たよ」

 

 オカリナの音と、青年(アルヴィス)の言葉に呼応されるように光が荒れ果てた地面から溢れ始める。

 

 最初こそ少なかった光がだんだんと多くなり、それは小さな精霊をかたちどる。

 

 《水精霊王様》《起こしてくれてありがとう》《ずっとずっと待ってたよ》

 

 「待たせてごめんね、僕はアルヴィスって言うんだ。水精霊王よりもその名で呼んでほしい」

 

 《アルヴィス様》《分かった》《会えて嬉しいアルヴィス様》

 

 精霊達は踊るようにアルヴィスの周りを飛び回ると、アルヴィスの頬に口付けをしてどこかへ飛んでいく。

 

 恐らく水の力が衰えている場所に向かっているのだろう。その光を見送ってアルヴィスは腰に下げた袋にオカリナを大切そうにしまいこみ。外していたフード付きマントを着直した。

 

 「おっと、これじゃバレちゃうか」

 

 ふと、腰に下げた装飾など付いていない鞘に収められた剣を困ったように見つめる。マントが突っ張って剣を指していることが丸わかりなのだ。剣を指す人を怖がる者も多い、あまり目立たせたくなかったのだろう。

 

 アルヴィスは少し考えてからそれを背負い込んでその上からマントを羽織ることにした。背に回されたせいで抜き辛いものがあるが、抜く予定はないので特に不便には思わなかった。

 

 「んーと、次どこへ行こう」

 

 

 アルヴィスがシュバルツに一人前──つまり、一人で世界を回っても良いと言われるまで、アルヴィスがテルナマリンを訪れてから二ヶ月ほどかかった。

 

 そんな日数を重ねれば成熟が早い精霊王であるアルヴィスは人間でいうところの十七歳になっており、既に見た目を変える迄には成長していた。

 

 その為、アルヴィスの見た目は人間の十八歳ほどであり、その年齢は冒険者として旅をしているものが多いという。シュバルツにその事を聞いたアルヴィスがすぐに見た目を十八歳にしたのはつい最近のことだ。

 

 

 

 そしてもうすぐでアルヴィスが産まれて一年が経とうとしていた。

 

 

 「ここらの平原はだいぶ酷いから時間がかかりそうだ。後でガリィーヴに教えておこう。」

 

 アルヴィスは手にした地図に丸をつけて胸元にしまうと適当な方向へ歩き出す。特に行く予定の場所のない旅である。こういう時は勘に頼るのが一番いいとアルヴィスは思っている。

 

 旅の目的は“精霊達の解放”。水精霊王が産まれず力が衰えてゆくだけの中自分の身を守ろうと多くの水精霊達が動物のいうところの冬眠に入ったのだ。水精霊と動物の冬眠は大きく違うところがある。それは、自分で目覚めることが出来ないということ。今まで精霊王がいない年が何年も続いたことなど無かった為に、その事はシュバルツでも知らなかったそうだ。

 

 

 「にしてもいい天気だなぁ、明日には崩れるだろうけど、空の青もいいね」

 

 「明日には崩れるだろう」というのも、水精霊達は解放されると土地を潤したり、(おとろ)えた水の力を取り戻そうと天気を崩させ雨を降らせるのだ。 水精霊王であるアルヴィスが訪れたことなど知りもしない人々はそれでやっと水精霊王が訪れたことに気づく。

 

 

 アルヴィスの近くにシノ、エノ、ラノの三人はいない。彼女達は精霊達を纏める仕事も持っている。その仕事に追われているために、アルヴィスの旅への同行は許されなかった……主にシュバルツに。

 

 

 人影のなかった焼け野原に一人の老人がポツンと立っているのにアルヴィスは気付いて驚かせない程度に声をかける。もちろん距離はとる。触られたりすれば自分が精霊王であるとバレる可能性があるからだ。

 

 

 「あの、どうかなされたんですか?」


 エルメラの元で言葉を教えられたアルヴィスが丁寧に話しかけると、やっとアルヴィスの存在に気づいたのか老人は「こんにちは、旅の方かな?」と返事を返す。

 

 「ええ、各国を旅しているです」

 「それは酔狂な。戦争をしている国もまだあるでしょうに」

 「そうですね。でも目的がありますから」

 

 目的地はない。だけれど。目的はあるアルヴィスの旅。老人は少し困ったようにその場に腰をおろす。

 

 「まあいい。旅のお方一杯酒に付き合ってはくれんか?」

 「お酒ですか…?」

 「しみったれた事はあまり好きじゃなかったんだ私の息子は」

 アルヴィスはそう言われ、彼の目の前にある少し大きめの石が墓石代わりなのだと気づいた。

 

 アルヴィスは彼から少し離れて座ると。注がれた酒の入ったコップを受け取り、口をつける。コップをアルヴィスに渡した彼は瓶に口を付けてゆっくりと飲む。

 

 

 

  

 

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