表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊王になりまして  作者:
水精霊王誕生
21/55

先代水精霊王と売られゆく存在



 【先代水精霊王…彼の名は多くの人間の心の中に残っている。


 その髪は青空のように美しく、足元まで伸びた髪は緩やかに波打つ海のよう。ラピスラズリの瞳はどんな宝石よりも輝き、何よりも彼は人を愛していた。】



 「…」



 アルヴィスは頭からすっぽりとマントで隠してテルナマリンの図書館で一冊の本を読んでいた。その本の題名は【水精霊王ナシオ・ヤーノルド】と記されており、その表紙には美しい長い髪の男が描かれていた。



 「ナシオ…ヤーノルド」


 【彼は戦争をする国々に対して「もし、戦争をするのなら僕は君らの前には現れないよ」と仰った。

 その瞳は冷たく、まるで死刑宣告を受けた気分だったと、当時の大臣は私に語ってくれた。


 彼は精霊王には珍しく契約者以外も気にしてくださる御方だった。食べ物が欲しいといえば種を与え育てるようにと(おっしゃ)り、見た事も無い食べ物を我が村へと(もたら)した。


 その食べ物はほかの国々では悪魔の食べ物と呼ばれていたもの。誰もが捨てて食べ方すら見いだせなかったそれを彼は食べ方までも教えてくれた。


 初めて食べたその食べ物は手間がかかるが腹は膨れ、よく腹持ちした。食糧問題を救ったのは国王でも農民でも無く彼だったと、私は思う。



 彼は聡明で、思慮(しりょ)深く、常にどこか遠くへ目を向けていた。



 まだ精霊王として若いという彼が、どうしてこんなに早く死んでしまわねばならなかったのか、私は毎晩頭を抱え、彼に祈りを捧げた。



 彼は聡明で思慮深く優しい我々人をよく気に掛けてくださる方だった(しか)し、それを我ら人は仇で返してしまった、それは長く語り継ぐべき我らの罪だ。そして────】


 「アル、帰るぞ」


 アルヴィスは突然に声をかけられて顔をあげる。そこにはガリィーヴがつまらなそうな顔をしてみていた。長く座っていたのか周りで利用していた人々はもう既にいなくなり、外は少しずつ暗くなり始めていた。


 「ごめん、僕読むの苦手だから時間かかって…これって借りれるかな」

 「その本は確かサリィが持出禁止だと言っていたね、王様脅したら持ってけるかもだけど」

 「いや、そこまではいいよ。しまってくる。」



 【彼がおこしてしまった(あやま)ちを、許せなかった事に今も酷く後悔している。】


 「先代水精霊王の…過ち……か」



 アルヴィスは手に持ったその本を少しだけ見つめてから本棚へそっと戻すのだった。


 

       ◇

 

 

 暗い牢屋に一人少女は寝かされていた。その手には重々しい鎖。美しかった白い髪は汚れ灰色のようになる。

 

 「こちらの娘なんてどうですか?年頃で白い髪に赤い瞳をもつ珍しい容姿でしょう? その上治癒能力が高いのかどれだけ殴っても一晩で治ります」

 

 

 牢屋の前に男が立つ。その腹は大きく、顔はにやけている。男は牢の中に入ってくると少女(シュナ)の髪を掴みあげその顔を牢屋の外にいる白髪の混じった赤い髪の男に見せる。

 

 「ほう、確かに美しいな」

 「でしょう?生まれは不明ですがこの容姿に治癒能力…雑用だけでなく人体実験や剣の試し斬りなどにも使える当店で一番いい“品”かと思われます」

 

 シュナは男の言葉に次第に震えることすらなく、ただ男を見つめ返す。“人体実験”、“試し斬り”幾度となく聞かされたフレーズだからだ。

 

 「……幾らだ?」

 「そうですねぇ、まだ調教などはしていませんが首輪代などを込めまして…それとライヤー様ですから割引して…金貨二十枚ですね」

 「高いな」

 「すいません商売なもんで」

 

 シュナは何も喋らずただその様子を他人事のように見ていた。その目には意思がなく、すべてを諦めているというのがすぐに分かる。

 

 

 

 「買おう 」

 「毎度ありがとうございます」

 

 

 その会話を聞いてもシュナは何も言わなかった。

 

 

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ