テルナマリン王国と剣
ドワーフの国、テルナマリン王国。
水や食糧問題で戦争が起こり続けていたが、土精霊王の契約者サリィ・テイルが現れてから他国からの攻撃を受けなくなり始めた荒れてない国である。
ドワーフは鉱山を好み鉱山の仕事を天職だと考える者が多くいる種族だ。その為、銅、鉄、金など一般に流通している鉱石だけではなく、土精霊王の恩恵によりミスリルなど希少な鉱石も発掘している。
戦争には武器がいる。
武器を作るには職人と鉱石がいる。
『ドワーフの作る物には魂が宿る』と豪語した剣士がいた。ドワーフの作る武器は他の種族が作るよりも強く硬くそれでいて良く馴染むと有名にさせた剣士の言葉だ。
ドワーフの特徴は小柄、褐色、職人気質と言うだけではない。もしテルナマリンを落とし、虐げ、作ることを強制させればそれだけでドワーフは作ることをやめる。現に昔一度だけテルナマリンが落とされた時ドワーフの名高い鍛冶師は自らが作り上げた武器を自らの手で壊し、または信頼できる人間にただ同然で譲り、自らも命を絶ったと言われている。
それほどまでにドワーフは作るということに関してこだわりがあるのだ。
だからこそこれからも戦争を続ける場合テルナマリンという国は落としてはならない。武器が入手困難になるからだ。
さて、食糧問題と言ってもドワーフ達は小柄だ。食べるものは少なくて良い。その上彼らが好んで飲むのは酒ばかりだ…、それのお陰か少なくとも食事は毎日取れる。争いのなくある程度安定している国。
それがテルナマリン王国。
「…あの」
「待っててください」
「いや…でも…」
「もう少し」
そんな国にアルヴィスは訪れ、現在サリィの着せ替え人形の様になっていた。
精霊王は普通の人間には触れられない。けれど契約者であれば触れることが出来る。契約関係にある精霊王だけではなく全ての精霊王に触れられるのだ。だからこそドワーフの好む細かな模様に刺繍された少し派手めの服をアルヴィスにサリィが着せられるわけだが……。
「……もう、離して…」
アルヴィスはその事を酷く恨むことになっていた。最初こそ優しそうな小さな女の子の様なサリィはアルヴィスの緊張を解すことにはなった。
なったのだが、慣れてくるとサリィはガリィーヴの確かに契約者なのだと身をもって知ることになった。マイペースで自由気まま、相手のことを気遣うことはできるが、何かやると決めたらもう周りを気にする暇はないとばかりに一直線。
アルヴィスは何度も着替えさせられ、慣れない人に何度も触られ、精霊たちもいない。
最終結果……
「ご、ごめんなさい水精霊王様」
「ねぇ、シュバルツ。アルのあれって怒ってるの?いじけてるの?」
「両方だと思うぞ」
アルヴィスは疲れとストレスで目が座り部屋の角で膝を抱え込んだままサリィと助けを求めても無視をした二人の精霊王を睨み付けたまま動かなくなったのだった。
◇
「うぬ、水精霊王様良くいらっしゃった…ワシの名はザダ・テルナマリン・トークトという」
小さな体に褐色の肌に白く編み込まれた髭を撫で付けてから彼はアルヴィスに対して礼をする。
「僕は水精霊王のアルヴィス・サークフェイス…あなたが王様?」
「そうじゃよ…ワシはこの国の王。テルナマリンの姓を名乗れるのはこの国でワシだけじゃ」
ふぉっふぉっと豪快に笑うザダはアルヴィスを見て目をすっと細める。アルヴィスは少し身じろぎして隠れたくなるが、今そばに居るのはガリィだけで隠れる場所がない。
それというのも城から迎えが来たというのにシュバルツはすぐに姿を消してしまったからだ。
「俺は先に帰っている、ガリィーヴ頼んだぞ」
「うん、分かったよ」
そう言って馬車に乗せられるアルヴィスを面白そうに見てから彼は帰った。不貞腐れるアルヴィスを残して。そのせいでアルヴィスは逃げ場がなくなってしまったのだ。
「して、アルヴィス殿、貴殿は契約者を見つけましたのか?」
「…いや、まだ…」
気まずそうに首を横に振るアルヴィスにザダは笑う。また先ほどと同じように豪快に。
「ガリィーヴ殿…アルヴィス殿はどこまで?」
「僕は何も話してないよ、シュバルツも話してないんじゃない?」
ガリィーヴは壁に固定されている斧を撫でながらザダを見ることなく告げると、ザダは慣れたようにアルヴィスへと視線を戻す。
「…先代水精霊王様について、学びなされ、アルヴィス殿」
「え?」
驚いて声を上げるアルヴィスにザダは優しく笑う。まるで自分の孫へと接するかのように。
「貴殿は何も知らない…それは美徳ではある……けれど、知らねばならないこともあるのも事実なのじゃ」
「……」
「変われとは言いませぬ、そんな権利ワシにはないからのう、だがなアルヴィス殿」
「二度と悲劇は起こしてはなりませぬぞ」
“悲劇”。アルヴィスの知らないことを知るザダ王はそう言ってから一振りの剣を渡す。
自らの手で渡したその剣をアルヴィスが受け取るのを見届けてそっと離れ
「それは先代水精霊王様が我が国へとお預けになられた剣…先代水精霊王様は仰った。その剣は自分には使えないが次の水精霊王ならば使えると」
アルヴィスは渡された剣を抜いてみる。美しい装飾品など付いてはいない無骨な鞘から抜かれた剣は美しく淡い青色の光を反射している気がした。
「今代の水精霊王様に、幸せを切り拓く剣にならんことを」
ザダはその光に目を潤ませ膝をつく。そしてそれを見ていた右大臣左大臣も膝をついて祈りを捧げたのだった。




