金髪美人と赤ん坊
意識が覚醒する感覚に、アルヴィスは困惑した、視界が揺らぎ、何が近くにあるのかもわからない、ただ呆然とざわめく木々の葉が視界に入る。
「起きたのか」
首は動かなかったが、目は動かせた、そしてそう声をかけてきた存在をアルヴィスは認識する。
サラリとした金髪からは狐の耳が、そして胸元の所をはだけさせる様に着崩した着物の裾は短く白く美しい太股が晒されていて。裾からはふわふわの尻尾が左右にゆったりと揺れていた。
「はじめまして、新たな精霊王よ」
そんな彼女は細いつり目でアルヴィスの眠るベッドに近寄り頭を優しくなでつける。
この女性はシシリー・ミルーチェ。
火の精霊王にして、産まれたばかりのアルヴィスを見つけた存在だった。
アルヴィスはシシリーの言ってることが理解出来ないのかただ瞬きしながらシシリーの頭に生えているぴくぴく動く耳を凝視していた。
「まだ流石に話せないようだな、安心しろ精霊王の成長は成人までは早い、すぐに話せるようになるさ……っていってもこの言葉もわからんだろうが」
シシリーは困ったように笑うと、果汁の入ったビンに布をつけてアルヴィスの口元へと押し付ける、じわりと布から染み出た果汁がアルヴィスの口を濡らす。
それを舐めて美味しいものだと理解したのかそれに食いつきジュージューと果汁に必死に吸い付いた。
これが、アルヴィスとシシリーの、初めて出会った日だった。
◇
「あーうー」
「こら、どこを触ってるんだ」
次の日のアルヴィスの姿は昨日よりも少し成長し、首が据わり寝返りもできるようになっていた。
そんなアルヴィスはお腹が空いたのかシシリーのその大きな胸を必死に押していた。
シシリーが呆れて瓶に入った果汁に布を被せたものをまた口元に近づけると待ってましたとばかりにそれに強く吸い付いた。
精霊王とは子を作れない、故に母乳が出る事はなく、新たな精霊王が産まれた際、近くにいた精霊王がその世話をするのがこの世界の決まりである。
そして母乳が出ないため精霊王はミルクではなく精霊樹の小さな実を絞った果汁を飲んで育つ。
足りない栄養は空気中に漂う魔素が補うということになっている。
元々精霊の食事は魔素だ、つまり、果汁を飲むのは産まれたばかりの時のみ、好んで食べ物を食べる者もいるが精霊は食べずとも餓死することは無いのだ。
「うー!うー!」
「何言ってるのか、全くわからん」
シシリーは駄々を捏ねるように自分に手を伸ばすアルヴィスに困惑しながら見つめる。
アルヴィスは美しい髪を持っていた。
ラピスラズリのようなキラキラとした美しい瞳に勿忘草色の透き通るように綺麗でサラサラとした髪を持ち、顔立ちも愛らしかった。
「……そういえばお前の名はなんというんだ」
「うー?」
「…通じんか。まあいい、腹に溜まったなら寝ろ」
シシリーはアルヴィスの髪を優しく撫で付けて
そしてアルヴィスから離れていった。