訪問者は土精霊王
いつも通りに過ごしていたアルヴィスとシュバルツの所に一人の精霊王が訪ねてきた。茶髪に茶色い少したれ目の瞳を持った小さな少年の姿をした彼はガリィーヴ・テンルスタ。土精霊王のガリィーヴだ。
「初めまして、水精霊王の…えっと誰だっけ」
困ったように首をかしげて悶々と考えるガリィーヴにシュバルツが呆れながらため息をこぼした。
「アルヴィスだ。アルヴィス・サークフェイス」
「そうそう!アルディス!」
「違う!アルヴィスだ!」
二人のやり取りをみてアルヴィスは困ったようにガリィーヴを見上げる。
「あ、僕の名前はガリィーヴ・テンルスタ。えーっと」
「初めまして、アルでいいよ」
「そう?じゃあそれで。僕は土精霊王なんて呼ばれてるんだよ。いやぁ、前から会いに来ようとは思ってたんだけどどうしてだかここにたどり着けなくて……シュバルツ迷いの魔法とか覚えたの?」
「お前が方向音痴なだけだ!それに、転移魔法使えばいいだろ!」
「あ、忘れてた。」
気の抜けるような二人の会話にアルヴィスは困惑して、段々この会話が普段通りだと気づくとそれを放置して珍しく一人なラノと戯れていた。
「そう言えばアルはまだ育ち切ってないんだねぇあとどれ位かな」
いつの間にかアルヴィスの傍に立っていたガリィーヴはアルヴィスの頭を背伸びして撫で付ける。その言葉が理解出来なかったのか、ガリィーヴにアルヴィスが目を向けると柔らかく微笑み返す。
「なに?シュバルツに聞いてないの?精霊王は成人まで成長すれば年齢は自在に操れるのさ。見た目の種族は決められないけどね」
「ガリィーヴはなんの種族なの?」
「僕?僕はドワーフさ。土精霊王にピッタリだろう?小さな体で力強く生きる…いやぁ、実に僕らしい種族さ」
ニコニコと楽しげに語るガリィーヴの頬は完全に緩みきっており、少しとんがりぎみの耳をぴくぴくと動かした。
小人族は種族全体で身長が低くまた肌は褐色でなおかつ力が強い種族だ。小さな体の割に力が強く鉱山付近に街や村を作り、住んでいる。性格は全体的に頑固者が多く、またどの種族よりも酒好きだと言われており、酒にも強い。豪快な性格をしているのが多いのだが、ガリィーヴは精霊王の為か笑い方が爽やかだった。
「ガリィーヴってドワーフなのか。…ドワーフって初めて見た」
興味ありげに自分より少し身長が低いガリィーヴをまじまじと見つめてから、シュバルツを見てアルヴィスは首を傾げる。
「バルは人族なんだよね?僕バルみたいな顔つきした人見たことないけど」
アルヴィスが見たことないと言っても。逆に見たことあるのはヨルゼ王国の者達だけだ。その中にはシュバルツの様な線が細く目鼻立ちがスッキリとした中性的に美しい顔つきをした者はいなかった。
シュバルツとガリィーヴは顔を見合わせると苦笑いを浮かべる。
「たしかにシュバルツは人族だけどさ…」
「ああ、俺は人族だがどちらかと言えば使族に近い者だと聞いたことがある。」
「使族?」
「遥か昔に天使が地上に降りた際、人と子を成し、その子が一族を立ち上げたという…それが使族だ。翼も出せるらしい」
天使の血が引いているとされる使族は翼を任意で出すことが出来、また使族という種族全体で中性的な線の細い美しい顔つきをしている。シュバルツのように銀髪に金の瞳を持つ者はいなくとも凡そ顔つきや体格が似ているのだ。
「なんでバルは使族じゃないの?」
「俺は使族の様に翼は出せないんだよ。」
「ふぅん、翼かぁ、どんな気分なんだろ」
アルヴィス立ち上がって自分の背中を見る。何にもない、ただの背を見て、彼は翼が生えたらと想像してしまう。
「飛ぶことは出来ると思うが……翼は無理だろうな」
「飛べるの?」
「ああ、その為にと一人前になる事だ」
「はははっ、僕は飛べないけどアルなら可能だろうね!」
アルヴィスはガリィーヴを見て「なんで僕なら可能なの?」と問いかけた。ガリィーヴは何かを答えようとしたが、それはシュバルツが彼の背中を蹴りつけたことで防がれる。
「痛っ」
「それでお前は何の用があってきたんだよ」
「あ、そうだった。」
ガリィーヴは蹴られた腰を擦りながらアルヴィスを見て、柔らかく微笑むと手を差し出し……
「アル。良かったらドワーフの国へ来ないかい?」
そう、言い放った。




