うまくいかない
アルヴィス・サークフェイスは、精霊王である。
そんなアルヴィスは色々な力について学び、色々な歴史について学び、種族について学び…この世界に産まれて6ヵ月がたった。
「バルー!行くよー!」
「来るがいい」
棒を持つシュバルツに同じく棒を持つアルヴィス。二人はあの精霊の森の広場でそれぞれ睨み合っていた。
アルヴィスの見た目は成長し、今や十二歳程の見た目をしている。ベルベナでの成人は十五歳とされている。つまり、見た目だけならあと数ヶ月でアルヴィスは成人扱いになるのだ。
そんなアルヴィスの今日の授業内容は“剣術”である。精霊王たるもの、魔法に頼りすぎることなく剣術も極めればならないとシュバルツは言った。
「はぁっ!」
地面を蹴ってシュバルツへと駆け出すアルヴィス。
シュバルツはそれを笑って見届け、背後に回るアルヴィスの右横に立ち──棒を振るう。
アルヴィスはそれを見越したかのように左へと転がる。その間も棒は手放してはいない。
「っやぁ!」
アルヴィスは再び駆け出し、シュバルツに棒を叩き込む。だが、シュバルツは難無くそれを防ぐ。“ガッ”と棒同士がかち合いへこんだ。
「力で勝とうとするな!」
それもシュバルツに払いのけられることですぐに終わる。シュバルツは左腕を後ろに回したまま片手でアルヴィスの相手をしている。両手ならもっと棒は重いだろう。
アルヴィスの体は大きくなってきても力はまだ弱い。成人以上の肉体を持つシュバルツにアルヴィスが力で戦うこと自体がおかしいのだ。
「今度は俺からだ…防げよ!」
「くっ!」
やってしまったとアルヴィスが悔しそうな顔をした、シュバルツもそれを見逃すほど甘くはない、容赦なく棒を叩き込む。
「いっ」
ギリギリと必死にシュバルツの棒を棒で受けたアルヴィス。その手は赤くなっている。力を込めすぎているのか手先が震えてきていた。
《アルヴィス様頑張って》《頑張れー》《だいじょぶ!落ち着こ!》
シノ、エノ、ラノの3人の声に励まされたのかアルヴィスは歯を食いしばり棒を持つ手に力を込める。
そしてシュバルツの棒をスライドさせるように滑らせ──腹へと棒を打ち込む。
からんと棒が落ちる。
膝をついたのは──アルヴィスだった。
「ふん、甘いな」
「……っ」
アルヴィスが勝ちを確信し、腹にだけ視線を向けていたことにアルヴィスは気づいた。その途端に棒を空高くに投げたシュバルツ。その空いた右手でアルヴィスの棒を掴み、奪い取るとアルヴィスの腹に棒を打ち込んだのだ。
「く、っ」
「力で挑むな、受ける前に避けろ。」
シュバルツは落ちてきた棒を拾って片付ける。悔しそうなアルヴィスを横目に「目を養え」と言いつけさっさとどこかへ行ってしまう。
「……ふぅ」
シュバルツのいなくなった広場でアルヴィスは地面に倒れ込み青く透き通った空を見上げ、ため息をこぼした。
《お疲れ様》《頑張ってたね》《かっこよかったよーっ》
三人はそんなアルヴィスの胸の上に降りるとゴロゴロと転がる。
アルヴィスの顔つきは可愛らしさがまだ残るが男らしい顔つきをしてきていた。体格も細くはあるが筋肉もしっかり付いてきている。
アルヴィスはちゃんと強くなってきているのだ。
シュバルツが強すぎるだけで、ちゃんと。
「……来週、か」
アルヴィスの想いはどこに向いているのか──分かる者は広場には居ないだろう。
ただただ青い空と、たくさんの木々がざわめくその空間で、アルヴィスは目を閉じた。
・ベルベナ
魔法、竜、精霊、聖獣などが存在する世界。
種族は獣人、人間、エルフ、ドワーフ、使族、魔族、魔物、獣、竜族、竜人族、幻獣族、妖精族etc.....
たくさんの種族が存在するが、それぞれを敵視しあっていて戦争が耐えない世界。
水精霊王が長きに渡り存在しなかったために水や食料が不足しているため、戦争がより一層多くなった。




