訪問者5
「よぉ、シュリア。元気だったか?」
「おっ、お兄さまがどうしてここに!?」
眼光だけで周囲のものを薙ぎ払えそうな圧倒的な存在感を放ち、そのまま軍神として庭のオブジェになれるのではないかと思うほど美しく精悍な顔立ちと堂々とした体躯の持ち主。
幻かしら? なんて思う余地もない。そんなあやふやさなど微塵も感じさせないのが私のお兄さまだ。
「ちょうどこっちのほうに用があってな、ついでだからイデルを届けに来た。あと、可愛い妹の顔を見にな。──おまえ、太った?」
「な……っ。会って早々に失礼ね! 太ってなんかいません!」
「いや、絶対肉がついてるぞ、このへんに」
むにぃーっと、私のほっぺを引っ張りながら「鍛練を怠るな」と笑う。
私も負けじと手を伸ばしてお兄さまのほっぺをねじってやろうとしたら、あっさり躱されてしまった。
「相変わらず動きが鈍いな。でもま、元気そうで何よりだ」
「お兄さまあぁ」
抱きついたときの、岩にぶつかったのかと勘違いするほど筋肉質なお兄さまの感触が懐かしい。
「シュリアさま」
お兄さまの背後からひょいと顔を出してきたのはイデルだった。
「長らくおそばを離れていて申し訳ありませんでした。ただいま戻りました」
「イデル! 体のほうはもういいの?」
「はい、もうすっかり。薬草を手に入れるために、シュリアさま自ら馬を駆ってくださったと伺いました。ほんとうにありがとうございました」
「いいのよ、そんなことは。元気になってよかった」
両腕でしっかりと抱きしめ、耳元でおかえりと囁く。
とくに痩せたとも感じなかったし、ほのかに香る甘いにおいにホッとした。
当たり前かもしれないけど、あのときのような血のにおいはしない。その事実を自分自身に刻もうとするかのようにイデルの肩に顔をうずめた。
「あの庭師のほうもだいぶよくなって、今はちょくちょく庭にも出ているようだぞ」
そっか。ラウラスも元気になったのね。よかった。
「あの……、でも、お兄さま。ラウラスの目は……」
「目? ああ、あれな。羽舞草の毒による一時的な症状だとかで、今はふつうに見えてる。心配いらない」
「羽舞草? ラウラスの毒も羽舞草のものだったの?」
「ああ、爺さんがそう言ってたぜ。たぶんそうだろうって。羽舞草の毒は、要は筋肉を弛緩させるものらしいからな。摂取量によっては眼球も同じ作用を受けて一時的に見えなくなるんだと。まあ、ほかにも違う毒が混じっていたようだがな。とりあえず詳しい話は部屋でしようぜ」
お兄さまに言われるままに場所を移したけど、途中ですれ違う使用人たちの視線が痛いったらなかった。
ほんとに目立つのよね、お兄さまって。容姿より何より、全身からにじみ出る力強さがもはや人外だ。
お兄さまが力なくうつむいたら、世界を支えている何か重要なタガが外れて、この世が崩れ落ちるんじゃないかとすら思う。
「さて。俺も暇じゃないんで単刀直入に訊くが、おまえを狙ったやつに心当たりは? トルナード男爵夫妻の件については、カルディアからあらかた報告を受けているが、なんでおまえが毒矢で狙われる?」
「それがさっぱり分からないのよ」
ほんとうは少し思い当たることがあったけど、黙っておく。お兄さまが本気で動くと、いろいろ怖いから。
どちらかというと、お兄さまもおばあさまと同じで、目的のためには手段を選ばない人だし。今はまだ、話す段階じゃない。




