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訪問者3

 ミリッシュはあのとき、片恋を諦めたのではなく、運命に身をゆだねようと思ったとか言っていたけど。

 あれはもしかしたら、運命に身をゆだねて結婚しようと思ったという意味ではなかったのかもしれない。


 細く長く息を吐き出し、天井を見上げる。

 これ以上は考えたところで無駄だ。情報が少なすぎて、すべて想像の域を出ないのだから。


 伸びをしてから、よしっと気合いを入れて立ち上がる。

 とりあえず今ここで出来ることをやろう。


 私が書庫に籠もっているのは、羽舞草の作用を調べるためだ。

 なぜトルナード男爵夫人には致死量に満たない毒が盛られていたのか。

 そう。致死量と考えるから話がおかしくなるのではないかと、ふと思ったのよ。

 最初にトルナード男爵が羽舞草の毒で亡くなっているから、すっかり死ぬ死なないの問題で見てしまっていたけど、羽舞草の毒にはもっとべつの作用があって、そちらの作用のほうが目的で使用されたのかもしれない、と。

 ここの庭師にそのあたりのことを訊いてみたら、「根をほんの少し葡萄酒に入れて飲めば陽気になれますぜ。度を越して入れると気絶しちまうらしいですけどなぁ! ははは!」という答えしか返ってこなかった。


 こういうとき、ラウラスならすぐ的確に答えをくれただろうになぁと、しみじみ思ってしまう。

 書庫で調べるといっても、かなり根気のいる地道な作業で、まず植物について書かれている書物を探すだけでもひと苦労だった。

 さらにそこから私のほしい情報となると、さらに見つけるのが困難だった。

 なにせ『この草を身につけていれば悪魔が払える』だの、『この樹液を額に塗ると分別がつく』だの、『悪魔がとりつく病に効く』だのという効能が当たり前のように書かれているのだもの。


 ラウラスは庭師の仕事はほどほどにして本を書けばいいのに。そしたら、きっとあっという間にお金持ちになれるし、国王さまの侍医にだってなれるわよ。

 内心でぶつぶつ文句を垂れながらも、重い書物を引っ張り出してはページを繰っているうちに、いつの間にか陽が傾いてきていた。


「あった! これだわ!」


 ようやくそれらしい文章を見つけ、かじりつくようにしてページに顔を寄せる。


「羽舞草の毒は幻覚を見せるなど、一時的に頭の働きを鈍くさせる作用がある……か」


 うーん。頭の働きを鈍く……。

 それってつまり、自白剤に使える可能性があるってことかしら。

 自白剤なんてものはけっきょく、頭をぼんやりさせて、心の奥底に眠らせているものを揺さぶることで効果が出るものだって、いつだったかお兄さまが言っていたし。

 もし自白剤として羽舞草の毒を使ったというなら、犯人はトルナード男爵夫人から何かを聞き出そうとしたということになるけど、いったい何だろう。


 今回の事件で犯人がサエウム伯爵の死を意識していることは、ほぼ間違いない。

 わざわざ羽舞草の花を用意してトルナード男爵夫人に過去の罪を想起させたのも、もしかしたらそれが目的だったのかもしれない。なにかを自白させるための伏線──。


 でも、ラウラスの話によれば、トルナード男爵夫人がサエウム伯爵に盛った毒に致死性はなく、夫人がサエウム伯爵を毒殺したというのは、ただの思い込みだろうということだった。


「その致死性のない毒が、夫人に盛られたのと同じ意味だったとしたら……?」


 どちらも羽舞草の毒。

 ラウラスの推理によれば、人の命を奪う毒と偽って、実際には致死性のない毒をトルナード男爵夫人に教えた人物がいるはずだということだけど。

 サエウム伯爵に盛られたのも自白剤の意味だったとしたら、なぜわざわざ致死性のない毒を教えたのかなんて、おかしな疑問はなくなる。

 だけど、いったい誰が何を知りたかったというのかしら。


 やっぱり十年前のサエウム伯爵の死について、もっとよく知る必要がありそうね。


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