門の内側10
ふいにラウラスと目が合ったので、にこっと笑いかけたら、ラウラスも笑い返してくれた。
その笑顔があまりにも慕わしくて、ここで時間が止まればいいのにと思ったけど、現実は容赦ない。
幸せな時間を押しのけるように部屋の扉をノックする音が響いた。
「お待たせして申し訳ありません。薬草の準備ができ……えーと……、もしかして私、なにかお邪魔でしたか?」
場の微妙な空気を察したらしいラヴァンが、扉を押し開けた体勢のまま、どこかぎこちない動きで私とラウラスを交互に見てくる。
「何をおっしゃっているんですか、邪魔だなんて。ずっとお待ちしていましたよ。こちらこそ急にお邪魔してお時間をいただいてしまい、申し訳ありませんでした。今からならまだ舟もあるでしょうし、夜が明ける前にはバーン城に戻れそうですね、お嬢さま」
「ええ、そうね。幸い、今日は満月に近いから、月明かりもあるはずだしね」
夏の夜は、冬場の半分ほどしかない。沈んだと思った太陽はすぐに顔を出すけど、私たちは新しい太陽の光よりも先にバーン城へ辿りつけるだろう。
まあ、それは良い話なのだけど、この釈然としない気持ちは何だろう。
ラウラスったら、少しさわやかに笑いすぎじゃないだろうか。ラヴァンのほうが戸惑って目を瞬かせているじゃないのよ。
ラヴァンの勘の鋭さとラウラスの鈍さ、二人で足して半分にすればいいのに。
「ラヴァンは、アモル伯爵夫人に仕えてもう長いの?」
包んだ薬草をラウラスに渡し、ラヴァンが振り返る。
「ええ。十年くらいになりますでしょうか。ずっとここでお世話になっています」
「十年って……そんなに長く? 他で働こうとかは思ったりしないの?」
アモル伯爵夫人は一応もう結婚もしているし、今は寂しい田舎暮らしでも、これまでそれなりに人生を謳歌してきたのだろうから、たいして不満がなくても理解できる。
でも、ラヴァンはまだ二十代半ばくらいに見えるし、屋敷からほとんど出ないアモル伯爵夫人に付き合って十年も過ごしているなんて、なんだかもったいない気がする。
「他のところへ行こうなどと思ったことはありませんよ。私はここでの生活しか知りませんし」
「でも、ここに来る前は?」
「それが、私にはここに来る前の記憶はないんです。ラエティアさまにはそれでいろいろとご迷惑をおかけしたこともありましたが、今は人並みにお役に立てるようになったと思っていますので」
「そう……」
みんな、いろいろあるのね。何が幸せかなんて、人それぞれということか。
そもそも私だって、地位も財産もある家に嫁ぐことが幸せだとは思えないんだし、いっしょか。
ただ大切に思う人のそばにいたい。それだけ。
「お嬢さま、そろそろまいりましょう」
「……そうね」
ラウラスはまたお嬢さまって呼んでるし。
じゃっかん唇を尖らせつつも、私たちはアモル伯爵夫人の屋敷をあとにして、イデルの待つバーン城へと急いだ。




