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運命の縁談5



「はあ……」


 どんよりと曇った空が、まるで胸の中にまでのしかかってくるようだった。

 今を盛りと咲き誇る針槐(はりえんじゅ)の甘い香りも、胸の奥にまで入ってこない。ベンチに腰掛け、私は針槐の白い花房を見上げた。


 このブリアール城の広い庭園に、針槐の樹はこの一株だけしかない。

 花は美しくて、香りもいいのだけど、すぐに枝が折れてしまうことや枝ぶりが不恰好で形を整えにくいなどの理由から、ブリアールの庭師たちがこの樹を好まないせいだ。

 そんな厄介者扱いの針槐が、なんだか自分の姿と重なって、また溜息がこぼれる。


「どうされました? さきほどから溜息ばかりつかれていますが。何か悩みごとですか?」


 針槐のすぐ横に屈みこんでいた青年が振り返る。

 私はあわてて笑みを浮かべた。


「なんでもないわ。ただ、ここ何日か頭痛がひかなくて……。ごめんなさい、鬱陶しかったわよね。気をつけるわ」


 嘘ではなかった。頭痛がするのはほんとうだけど、それは溜息の理由じゃない。

 溜息のほんとうの理由は、いかにしてメリディエル家との結婚を破談させるか、その方法が思いつかないからだ。


 相手がメリディエル家でなければ、まだ何とかなったかもしれない。

 当主であるお父さまが頷かなければ、いくらおばあさまが騒いだところで婚約も結婚も成立しないのだから。


 そう。そのへんの貴族なら、お父さまが縁談を蹴ってしまえばいいだけの話。

 でも、メリディエル家はそのへんにいるどうでもいい貴族ではなく、境守伯なのだ。爵位の序列だけでいえば侯爵家のうちより下だけど、境守伯というのは他の爵位とは比べものにならないくらいの権力を持っている。


 領地が国の端にあって、隣国と向き合っているからこそ、その権限はときに国王に準ずるほどのものになる。おまけに、メリディエル家は国王を選び定める選定侯の家柄。

 お父さまが縁談を断れる相手じゃない。私が泣きついたところで、どうにもならない。


 だいたい忙しいのか、最近のお父さまは文もくださらない。私から文を出しても、いつ読んでもらえるか分からない。


 これはもう、婚約は成立したものとして考えておいたほうがいい。

 それに、ミリッシュの話によれば、おばあさまは来月の半ばまでに婚礼の衣装を仕上げるように指示していたというから、下手をすれば、婚礼の日取りだってすでに決まっている可能性がある。


 だけど、まだよ。婚約は、まだ結婚じゃないわ。

 婚約段階ならば、双方の名誉を傷つけることなくそれを破棄できる条件がいくつかある。


『悪魔の花に遭遇する』、『五本足の鼠に遭遇する』、『双頭の蛇に遭遇する』。

 婚約しているときに、どちらかがこれらの条件に当てはまると、その結婚はよからぬものだと神から警告されていると見なされ、婚約解消になるのだ。


 本来は遭遇してはいけないものだし、そもそも普通にしていれば目にすることなんてないものばかり。わざとお目にかかろうと思うと、かなり難しい。

 五本足の鼠だの双頭の蛇だのが、そんな簡単に見つかるわけがない。かろうじて可能性があるとすれば、悪魔の花……だろうか。具体的にどんな花なのかは知らないけど。


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