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代償11

 剣を持っているのはあと一人。

 見たところ、さっき投げ捨てた剣よりは小ぶりだ。


 か弱い乙女ひとりを相手に、早くも剣を抜いているのがみっともないではないの。

 いっせいに飛びかかってくる男たちを避けつつ、剣を持っている男の急所を蹴り上げる。

 他の二人が何か喚いていたけど、聞こえない聞こえない。


 奪い取った剣を一閃して男たちとの間合いを取りなおしてから、また川に剣を投げ落とした。

 悶絶している男をおいて、他の二人が目を吊り上げて殴りかかってくる。きっとその顔は真っ赤だったことだろう。今の私には見えないけど。


 こんなときに正々堂々もくそもない。弱点なんてつくためにあるのよ。

 隙を見て、もうひとり股間を蹴り上げる。


「──あ、ちょっ!」


 男がよろめいた拍子に私の手首をつかみ、そのまま地面に倒れ込んだものだから、私まで道連れに。

 それだけならまだしも。


「なにすんのよ! 倒れるなら一人で倒れないさいよ、バカっ!」


 私といっしょに倒れた男を力いっぱい突き飛ばす。

 けど、感覚がなかった。

 そう。私はやってしまったのだ。倒れた拍子に、男の体のどこかに唇があたってしまった。


 男の意識が痛みで埋め尽くされていたのがせめてもの救いというかなんというか……。

 いや、そんなことはもうどうでもいい。


 それよりこの状況。どうすべきか。

 まだ馬面の男が元気でぴんぴんしている。

 慌てて振り向いたときには、すぐそばに馬面の顔があって、私の視界が反転した。


 もうもう何がどうなっているのか理解できなかった。

 痛みも感じないし、後ろからつかまれても分からない。

 どうしよう。どうすればいい?

 頼れるのは色を失った視覚のみ。


 太い腕が私の首もとにあるのを確認すると、背後にいるはずの男に肘鉄を入れた。……入れたと信じたいけど、感覚がない私には、それが命中したかどうか分からない。

 とにかく無我夢中で暴れて男の後ろをとると、そばにあった石造りの欄干によじ登り、馬面の男めがけて飛び下りた。

 私の渾身の飛び蹴りがみごとに男をとらえ、おもいっきり地面に沈めた。


 ふん。私は向かうところ敵なしのお兄さまに育てられたんだから。ナメんじゃないわよ。

 皮膚感覚が麻痺していない状態で、私に合った細身の剣があれば、もっとスマートに容易く勝負をつけられたはずだけど、無様でも何でも、とにかく危機的状況を切り抜けられたからそれで十分だわ。


「お……、お嬢さま……?」


 え?

 ふいに耳に飛び込んできた声に、恐る恐る振り返る。


 白と黒に埋め尽くされた世界で、唯一鮮やかな色をまとっているその人。

 青い顔をして、中身が零れ落ちてきそうなほど目を見開き、立ち尽くしているその人は。


「ララ、ラウラス!」


 うそっ、やだ。

 もしかして、今の見られてた?


「あの、あ……えーと、いったい、なにが?」


 あたりに転がっている男たちと私の間で視線を行ったり来たりさせながら、明らかに動揺しているラウラス。


 私はもう恥ずかしくて死にそうで、今すぐ地面に穴を掘って埋もれたくてたまらなかった。


 男みたいに馬を駆り、土壇場で舟に乗れないなどと迷惑なことを言う。そこに加えて、大の男を蹴り倒す女……。

 最悪だ。そんなの、もはや女子としてありえない。


「あ、お嬢さま!? 大丈夫ですか!?」


 膝から力が抜けて地面にへたり込んだ私のもとへ、ラウラスが駆けてくる。


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