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代償8

 流れ込んでくる少女の記憶。

 母親と手を繋いで買った薬。働いて働いて、やっとやっと買えた薬。

 誰かにぶつかって、気づいたら一人。

 手にしていたはずの薬もなくて、ぶつかった誰かに追いかけられて、必死に逃げて、隠れて──…。


「ああ、怖かったね。もう大丈夫よ」


 抱きしめると、痩せっぽちの少女は私の腕にすっぽりとおさまって余りあった。


「ラウラス、私はこの子とここで待っているから、薬草師の店に行ってきてちょうだい。それで、心臓の病に効く薬も買ってきてくれる?」


「心臓……? 急にどうされたんですか? それに、あの、具体的にはどのような薬なのでしょう?」


「具体的にって言われると困るんだけど、店に行って、子連れの金褐色の髪の女性が買った薬だと言えば分かるはずよ。それから、道中でその女性を見かけたら連れてきて。この子の母親なの。えっと、右の口もとにホクロがあるわ」


「なぜそのようなことがお分かりに?」


 困惑げに首を傾げるラウラスは、レールティ家に伝わる《真実の雫》のことは何も知らない。

 ラウラスがブリアール城に来たのは五年前で、その頃には私も《真実の雫》を使うことはほとんどなくなっていたから。


 それに、ラウラスは植物以外のことにはほとんど興味を示さないので、そんな突拍子もない話をしたところでろくに反応も返ってこないだろうし、面白くないから誰も敢えて耳に入れようとはしなかったのだろう。


「なぜかなんて気にしなくていいから。とにかく行ってきて」


「はあ……。ですがあの、お嬢さまおひとりで大丈夫なのですか? いっしょに店まで行かれたほうがよろしいのでは」


 そうしたいのは私だって山々だったけど。

 でも、《真実の雫》を使った今の私はラウラスの声しか聞こえないし、できるかぎり他者との接触は避けたい。


「私なら大丈夫だから、この子とここで待ってるわ」


「えっと、では、馬はどういたしましょう」


「少しの間だし、そこに繋いでおいて……あ、いいわ。私がやるから」


 馬に乗らないラウラスでは綱の結び方が分からないだろうし、私の手で素早く馬を繋いで、首をひねったままのラウラスを送り出す。

 そうして、少女といっしょになって路地裏の隅に座り込んだ。


「お兄さんがすぐ薬を買って来てくれるからね。お母さんにもちゃんと会えるわ。心配しないで」


 少女はすこし怯えた表情で私を見ていた。まあ、それも当然の反応だろう。

 少女自身は何も話していないのに、母親や薬のことを知っている私は不審人物でしかないはずだもの。


「私はね、精霊から正直者を見つけて手助けするように使命を与えられているの。だから、正直な人にキスをすると、その人の望みが分かるのよ」


 我ながら脚色具合がひどいけど、精一杯の真実を織り交ぜた嘘の答えで誤魔化す。

 本当のことを言ったら、相手はいい気がしないだろうから。心の内が覗けるだなんて、そんなこと。

 だけど。


「ねえ。もう一度、お母さんと薬を買ったときのことを思い出してみてくれる?」


 嘘をついていて申し訳ないと思いながらも、少女の額にふたたび口づける。

 どうしても確かめたいことがあった。

 少女の記憶の片隅に、景色として入り込んでいたもの。それが自分の見間違いかどうか、どうしてもはっきりさせておきたかった。


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