運命の縁談4
「シュリアさま! お待ちになってください。私が結婚する相手はシュリアさまがお考えになっている方ではないのです!」
私が扉を押し開けようとするのとミリッシュが声を上げたのとは、ほぼ同時だった。
「なに、それ。どういうこと?」
ドアから手を離し、ゆっくりと振り返る。
「ミリが想いを寄せている同い年の相手と結婚するわけじゃないっていうの? あなた、結婚はその人としか考えられないって言っていたじゃない」
「ええ。ですが、やはり叶わない想いは私には重くて……。そんなときに、ちょうどいいお話が来ましたもので。私ももういいかげん、いい歳ですし」
そう言って、ミリッシュはうつむいた。その拍子にシャラと音がして、長い銀髪が肩にかかった。
音を立てたのはミリッシュの銀の髪留めだろう。
紫水晶が嵌めこまれているその髪留めは、むかしミリッシュの仕立てた衣装を気に入ったという国務卿からいただいたものらしく、その事実が仕立て屋としてのミリッシュに箔をつけてもいた。
そんなミリッシュは私より十歳年上で、今年で二十七歳になるはずだった。
いくら平民の平均的な結婚年齢が貴族より高いとはいえ、二十代後半で独身なのは十分に行き遅れといえる。だけど。
「片恋をあきらめたっていうの?」
「あきらめたと言いますか、運命に身をゆだねようと思ったと言いますか……。そう。これが私の運命だったのですわ」
「うんめい……」
力なく笑うミリッシュに、まるで自分の行く末を見せられたような気がして、あわてて激しくかぶりを振った。
「私はミリみたいに、叶わない片恋が苦しいからって、他の人に逃げたりしないわ。叶うことなんて最初から期待してない。そんなの最初から承知のうえでの気持ちだもの。諦めて他の人と結婚するなんて、ミリの気持ちはけっきょく本物じゃなかったのよ。私は違いますからね。私は絶対に誰とも結婚なんてしないんだから! 婚礼の衣装なんて作るだけ無駄よ」
見ていらっしゃい。メリディエル家との結婚なんて、この私が破談にしてやる。
私はミリッシュとは違う。私の気持ちは本物だって、証明してやるんだから。
「シュリアさま! 私は結婚したらこの土地を離れます。私がシュリアさまの衣装を仕立てるのはこれが最後になります。ですから」
「だから何よ!? それを着て私におとなしく嫁に行けとでも!? ふざけないで!」
今度こそ扉を押し開け、私は廊下に飛び出した。