運命の縁談3
「なにそれ! そんな話、全然聞いてないんだけど!! おば、おばあさまは、わわわ、わたしを結婚させようとしてるっていうの!?」
それで、その相手がメリディエル家の息子とかいうわけ?
笑えない冗談はよしてよっ。
「ミリは知っていたのね? 知っていながら、何食わぬ顔して私の花嫁衣装をつくってたのね!? 信じられない! この裏切り者っ!」
「シュリアさま、落ち着かれなさいませ」
「イデル! あなたもよ! なにが推測にすぎない曖昧なことは話せない、よ! バカにしてるの!? そんなに私の不幸が面白い!?」
なるほど。いま理解したわ。
おばあさまが急に都に行くと言い出したのは、お父さまを説得するためだったのね。
私の縁談なんて、お父さまが知っていたら、私に教えてくれないはずがないもの。これはきっと、おばあさまがひとりで勝手に進めている話に違いない。
「あなたたち、いったい私に何の恨みがあるの? 私が結婚なんて望んでないことは知っているくせに! ミリは私だけ切り捨てるつもりだったの!?」
私とミリッシュには、共通の秘密がある。
私がミリッシュを姉のように慕わしく思っているのも、その秘密があるからこそ。
秘密の片恋同盟。
それが身分を超えて私たちの仲を結びつけたもの。
お互いに叶わない想いを抱える身だけど、この気持ちを大事に持ちつづけましょうって、ふたりして愛の女神とも言われる大地の神ガルファラに誓ったのよ。
それなのに、よく知らない相手と私を結婚させようだなんて、立派な裏切り行為じゃないの。人としての道義にもとるわ。
「シュリアさま、そうミリッシュを責めては可哀想ですよ。仕立て屋にすぎないミリッシュが、アナファさまに逆らえるはずがございませんでしょう。それに、シュリアさまだけではありません。ミリッシュも近いうちに結婚するのです」
「なんですって!?」
素っ頓狂な声が喉をついて出ると同時に、思わず腰が浮いた。
「ミリが結婚って、それは本当なの!?」
ミリッシュは黙って頷いた。
私はもう、こぶしがプルプル震えそうになるのを抑えるのに必死だった。
「なによ、それ。自分が願いを叶えて幸せになれるからって、同盟解消のついでに、私も結婚させようってこと!?」
我慢しきれなくて、ソファにあるクッションをつかんで振り上げる。
「シュリアさま、ほんとうに落ち着いてください。きちんとミリッシュの話も聞いて差し上げてください」
「落ち着けるわけ、ないでしょっ!」
力任せにクッションを投げつけ、そのまま踵を返して扉のほうに向かう。
なによ。どうせみんな心の底では、私のことなんてどうでもいいと思ってるんでしょ。もういいわよ。
「シュリアさま、お待ちください! そのような格好で……いけません!」
ふん。みんなそればっかり。
体裁ばっかりだ。腹が立つったらない。
肩にかけているだけだったローブも鷲掴みにして、これ見よがしに投げ捨ててやりたかったけど、さすがにそれはできなかった。
私はおしとやかでお上品なお嬢さまでいなければいけないのだ。下着姿で城内を歩いていたなんておばあさまに知れたら、冗談抜きで殺される。私じゃなくて、側仕えの侍女たちが。