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運命の縁談2

「さあ、吐きなさい。何を隠しているの? おばあさまがいったい何だっていうのよ」


 他の侍女たちがいなくなったとたん、かぶっていた猫を脱ぎ捨てて傲然と顎を上げ、息がかかりそうなほどイデルに顔を寄せる。

 イデルはそんな私からわざとらしく目を逸らし、口も開かなかった。

 ふん。今さらシラを切ろうとしたって無駄なんだから。


 私は踵を返し、ボディスとペティコート姿のままでソファにどっかと腰を下ろすと、これ見よがしに足を組んだ。


「他の侍女たちも何か知っているみたいだったわよね。そうやって、あなたたちは私を陰で笑うのね」


「陰で笑うだなんて滅相もないことでございます」


「じゃあ、何なのよ。イデルがここで答えないなら、他の侍女に訊くわよ。それとも、おばあさまに直接訊こうか?」


 イデルは今は私の侍女という立場になっているけど、幼い頃は私の話し相手という立場でずっと一緒に過ごしていたから、他の侍女とは違ってとても気安い仲だった。


「シュリアさまがお尋ねになっても、侍女たちはもちろん、アナファさまもお答えにならないと思いますよ」


「なんでよ」


 イデルはふぅと肩で息をついた。

 整った顔立ちのイデルは、黙っているとどこか冷たい印象を与える。

 紅をひかなくても紅く色づいているくちびるが、弧を描いていないそれを目立たせてしまうせいもあったし、無駄な肉なんてない輪郭と切れ長の目が愛嬌とは無縁だったせいもある。

 同い年なのに、私とは真逆のイデルの容姿がときどき本気で羨ましくなる。イデルくらい美人で大人っぽければ、振り向かない男の人はいないだろう。おまけに、もとは男爵家の令嬢なので気品もある。

 とても残念な話だけど、初めて会う人などはイデルをブリアール侯爵令嬢──つまり、私と勘違いすることも珍しくなくて、私なんかはもう慣れてしまったくらいだ。間違えられたって腹も立たないし、仕方ないなと肩をすくめる程度だけど、イデルのほうはけっこう本気で怒るから怖かったりする。


「まったく……あの侍女たちにも困ったものですね。まあ、気持ちは分からないでもありませんが」


 淡い水色のローブを私の肩に着せかけると、イデルは仕立て屋のミリッシュを私の向かいの椅子に座らせ、自らもその隣に腰かけた。


「さきほど、私の口から申し上げるわけにはいかないと申しましたのは、私も事実を知らないからです。私もあの侍女たちも、たしかなことは何も存じません。ですから、ただの推測にすぎない曖昧なことを話すわけにはいかないと──」


「御託はいいわ。推測でも何でもいいから話して。どうせ今、おばあさまは都に行ってて留守なんだから、なに言ったって、いきなり怒鳴り込んでくる心配はないし、平気よ」


「いえ、そういうことではなくてですね」


「じゃ、どういうことなのよ。メリディエル家の息子がどうの、おばあさまの指示がどうのって。いったいおばあさまは何を企んでいるの?」


 向かいに座るイデルと、そして、ミリッシュを睨みつけるようにして見る。

 イデルほど付き合いは長くないものの、ミリッシュは私にとって姉のような存在で、あまりおおっぴらには言えないけど、私たち三人は身分を超えて友情を育む仲だった。


 イデルは料理の味付けにとてもこだわりがあって、東方出身のミリッシュからいろいろと珍しい香辛料の話を聞いたり、ときには実際に入手する際の仲介になってもらったりしているようだったし、私とミリッシュはある共通の秘密を抱える者同士。

 こうやって三人でテーブルを囲み、ミリッシュが作ってきたお菓子をつまみながら談笑することもしばしばだった。


 だけど今は、ミリッシュは膝のうえできっちりと手を揃え、なにやら緊張した面持ちで床を見つめていた。


「私がアナファさまから頂きましたのは、来月の半ばまでにシュリアさまのドレスを三着つくるようにとのご指示です。色は濃紺、萌黄、白でとのことでした」


「濃紺、萌黄……白!? ちょ、それって!」


 結婚するときに花嫁が着る伝統的なドレスの順番じゃないのよ!


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