運命の縁談15
音の出どころを探ろうと首をめぐらせたちょうどそのとき、樫の扉が開いて従僕が姿を現した。
「イーヴィス? 男爵はどうなさったの」
トルナード男爵夫人が訝しげに眉根を寄せる。
従僕は肩で激しく息をしていたけど、まさか男爵と駆けっこをしてここまで来たわけではないだろう。それに、後ろから誰かが来る気配もない。
何よりも、ぶるぶると震えている従僕の両手が異様だった。
扉がカタカタと奇妙な音を立てたのは、おそらく従僕のその手の震えのせいだろう。
右に左にくるくると忙しく動き、まったく焦点の定まっていない目。つんのめるようにしてトルナード男爵夫人のもとに駆け寄った従僕のその顔は真っ青だった。
客人であるはずの侯爵令嬢が女中のふりをしているのに遭遇したときでさえ、すこし瞠目したくらいだった物静かそうな従僕なのに。
「おおお、奥さま、あ……あの、あの、だんなさまが……っ」
「何です。落ち着きなさい。男爵がどうなさったの」
「だっ、旦那さまがお部屋で倒れられていて、その、お、おお、お亡くなりに……!」
悲鳴にも似たその声は完全に裏返っていて、場を凍りつかせるに十分だった。