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舞踏会7

「ご実家からということは、シカトリス城からいらしたのですか?」


 暇人なの? と、内心で冷たく付け加えつつ、顔には笑みを貼りつけて問いかける。

 爽やかな子爵さまは、それはそれは爽やかに答えてくださいましたよ。


「ええ。ご招待はいただいていたものの、最初は参加するつもりはなかったのです。ですが、デュ・レールティ嬢がグラスレン公爵の舞踏会に参加なさるとお聞きしましたので、馳せ参じました」


 …………。

 何なの、この人。本気で言っているの?

 爽やかそうな顔して、じつはものすごい遊び人とかなの? セリフがくさすぎて鳥肌立つんですけど。

 なんで元婚約者の私が参加すると聞いて、わざわざ遠方から馳せ参じる必要があるのよ。全っ然、意味がわからないわ。


 なにこれ。私への嫌がらせ?

 ちゃんと子爵さまの名誉は傷つけずに破談にしたじゃないのよ。それとも、お家騒動の絡みで私を恨んでるとかなの?

 キアルはメリディエル家の後継ぎの座を異母兄と争っていて、後ろ楯にレールティ家が欲しいから私を花嫁したがったとお兄さまから聞いたけど。その計画が上手くいかなくなったから、仕返しでもするつもり?


 私が不信感いっぱいであれこれ考えている間も、子爵さまは人好きのする笑顔を浮かべたまま私のほうを見ていた。


「デュ・レールティ嬢。できましたら、私と一曲踊っていただけますか」


 え……。

 思わず絶句した。

 この人、私を噂の餌食にするつもりか。


 私たちの婚約が双頭の蛇という極めて珍しいアクシデントによって解消に至ったことは、すでに多くの貴族が知っている。というより、知らない貴族はいないくらいだ。

 なのに、神の意志で破談に至った二人がここで踊れば、貴族たちの明日の話題をさらうことは間違いない。

 さすがにおばさまもこれには渋い顔をした。


「子爵さま、お気持ちは大変ありがたいのですが、今宵のシュリアは足を痛めているなか、グラスレン公爵とのご関係を考慮し、無理を押して参加いたしておりますので、これ以上の負担はかけられないのでございます。ダンスのお相手はまたの機会にということで、どうかご容赦を」


 すました顔でこれでもかというくらいスラスラと嘘八百を並べて断るおばさまは、まさにお目付け役のお手本と言えた。

 おばさま最高!! と、内心で拍手をしていたら、子爵さまはそれでも笑みを崩さずに言った。


「そうですか。美しい令嬢の白い手をおしいただく光栄に預かれなくて残念です」


 ひいぃ。寒い、寒すぎるわ。背筋が凍りそうよ!

 ほんとに何を考えているの、この人。


「思いがけないことで私たちの婚約は解消に至ってしまいましたが、私はまだ貴女のことを諦めてはいませんので」


「……え? あの、はい?」


 子爵さまが何を言っているのか本気で理解できなくて、扇で顔を隠していなかったら、私は完全に間抜け面を晒す羽目になっていただろう。


「私はどうしても貴女に花嫁になってもらいたいのです」


 かるく頭を振り、なんとか思考回路を回復させようと躍起になる。


「子爵さま、それは無理というものでございます。私たちの結婚は神様がお望みではないのですから」


 噛まずにそれだけのセリフを言えた自分に拍手を送りたかった。


 私に絡んでくるのは、やっぱり後継者争いの問題のせいなのかしら。

 頑固な人だなと、こっそり肩をすくめる。

 後ろ楯がほしいなら、私じゃなくても他の有力貴族の令嬢を花嫁にもらえばいいのに。


「いいえ、デュ・レールティ嬢。条件さえ満たせば、一度神の意志で破談になったものでも無効になります。私は近いうちに必ず貴女をお迎えに上がります。それをお伝えしたくて、ここまで参りました」


 なんかもう、二の句が継げなかった。

 どうしてこの人はこんなに頑固なのかしら。とても賢そうな目をしているのに……。

 隣を見ると、ステラのおばさまも口をぽかんと開けていた。


 これって、私が結婚を申し込まれてるってことよね。婚約解消になった相手から。

 こんなことってアリなの?

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