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舞踏会4

 午後のドレスに着替えて昼食をすませると、久しぶりに庭に出てみた。

 ラウラスが留守にしているのなら、何も気にせずに出たって平気だ。

 そうは言っても小雨が降っていたので、屋根のあるガゼボくらいにしか出られなかったけど。


 ラウラスはいつ帰ってくるんだろう。帰ってきたところで直接会うわけではないけど、彼がブリアールの庭にいないと思うだけで心にぽっかりと穴が開いたようで、足元がふわふわする。

 まさか王城に行って、そのまま薬草師か何かとして雇われたりしないわよね……。


 ブリアール城では一介の庭師としておさまっているラウラスだけど、彼は本当に優秀な植物学者だし、薬草の知識が豊富で、そのへんの怪しい呪術師よりもよほど確実に効果のある薬を調合できるから、王族の方々に気に入られそうで怖い。


 ましてやラウラスを呼んだのが王妃さまだというから、余計に引っかかる。

 ラウラスってほんとに綺麗な容姿をしているんだもの。それなりの服を着ていれば、絶対に誰も庭師だなんて思わないくらいに。

 そんなラウラスを知ったら、王妃さまは彼を手放したくなくなるかもしれない。

 おまけに、ラウラスは国王と親しい宮廷庭師であるガルフノーの息子だし。


「大丈夫かなぁ」


 思わず呟いた言葉と共に、白い吐息が宙に溶ける。


 お兄さまはおばあさまがラウラスをブリアールから追放しようとしたとき、ラウラスは今も現役で国王に仕えている宮廷庭師の息子だから安易に追放するべきではないと言って説得していた。

 お兄さまが言うには、ラウラスの父親であるガルフノー・ウィリディリスは現王から貴族の称号を許されていて、国王ともかなり親しい仲なのだとか。

 今のところ政に介入することはないけれど、現王にとってガルフノーの発言力は大きいと、お兄さまはおばあさまに忠告していた。


 庭師といっても、宮廷庭師というのは特別な存在。ましてやガルフノーは庭園を設計する造園師を兼ねているから、一介の庭師とは格が違うのだそうな。

 実際のところ、ラウラスはガルフノーとは疎遠だし、血縁関係もないから、ラウラスがブリアールから追放されようとどうしようと、ガルフノーがしゃしゃり出てくるとは思えなかったけど、もちろんそんな余計なことは私も口にしなかった。そもそもラウラスにとって、それらは触れられたくない秘密だろうし。


 そう。宮廷にはラウラスと仲の良くない父親がいる。それも心配だった。

 いつも穏やかに微笑んでいるラウラスが、父親の話をするときはとても苦々しい顔をしていたから。

 父親のつくる庭が好きではないと言っていたし、宮廷に行ってラウラスが嫌な思いをしないか心配だった。


 人には大っぴらに言えない生い立ちを抱えているラウラスは、きっと幼い頃に父親からさんざん辛く当たられてきたに違いない。

 せっかくブリアールで穏やかに過ごしていたのに……。また嫌なことを思い出して辛い思いをしてほしくない。

 誰か宮廷でラウラスを守ってくれる人がいてほしいけど……。


「今ごろ、どうしてるかな」


 会いたいなあ。

 話せなくてもいいから、ラウラスの声が聞きたい。


 けっきょく、これが私の答えなんだろう。

 いくら地位や財産のある貴族の男と出会ってみても、ラウラスへの気持ちが薄らぐことはなくて、ただ胸が苦しくなるだけ。

 どうすればラウラスへの想いは過去になって、どうすれば新しい恋ができるんだろう。本当に分からない。


 いっそのこと、もう新しい恋も愛もすっぱりと諦めて、明日の舞踏会で結婚相手を決めてしまおうかしら。

 そのほうがいろいろとすっきりする気がする。

 きっと、ヘンに振り返ることができるこの状況がいけないのよ。

 絶対に振り返ることも後戻りすることもできない状況に自分を追い込めば、こんなにうだうだした気持ちにはならないはず。


 どうせ財産目当ての男ばっかりなんだから、相手が誰だろうと大差ないんだし。今さら邪心もクソもないわ……と、《真実の雫》がおさまるブレスレットに手を重ねる。


 よし。私、決めたわ。

 明日の舞踏会では、本気で結婚相手を探す。

 それで、さっさと婚約して結婚して、こんな苦しい気持ちは消し去ってしまうのよ。


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