幽霊
1-7
間島は朱塗りの門の後ろで様子を見ていた。
上田友和がどの様な反応をするのか興味が有ったからだ。
「友和、その汚い犬を早く処分しなさいよ、何か内のワンちゃん、達に変な病気が感染しそうよ」、
「判っていますよ」
友和は欄と母早苗の帰ると同時に保健所に犬を持って向かった。
その日の夜ニュースで事故死を知ったのだ。
「友和、間島さんとは縁がなかったのよ、それより、私のあげた子犬が一緒に亡くなったのが可愛そうで、可愛そうで、今夜は眠れないわ」と言ったのだ。
赤いバックを持っているから目立ちますと手紙に書いてあったけれどどの人なのかな?
欄の僕に渡したい物って何?子犬のお礼かな?
そんな事を思っていると、その赤いバックを持った小泉欄がタクシーから降りてきた。
あっ、あの人だと思った瞬間、身体が凍り付いた。、
こちらを向いた小泉欄は、あの子犬を貰いに来た時の姿そのものだったから、欄は周りをキョロキョロしている。
友和は足が動かないが漸く近づこうとした時、公平がそれを遮った。
間島はその瞬間に欄を連れてタクシーに乗ってしまった。
あれはお父さんだ欄の葬儀の時に一度会ったから覚えていた。
何が起こっているのか友和の頭は混乱していた。
いきなり「小泉さんとどの様な関係の方でしょうか?」公平が友和に言うが「貴方、どなたですか?いきなり、何を言っているのですか?」と怒る友和。
「小泉さんとの関係を聞いているのです、待ち合わせをしていたのでしょう?」「小泉さんって僕は知りません、人違いですよ」
「いいえ、貴方は今日約束をしていたでしょう?此処で?」
「私は間島さんのお友達の北村真弓さんを待っているのです、変な事言わないで下さい」と言われて公平は人違いだと思った。
「そうなのですか?すみませんでした」公平は謝って引き下がるしかなかった、
その二人のやりとりの中、間島と欄は京都の町に消えてしまっていた。
これで上田友和から何かのアクションがある。
彼の心臓は破裂しそうになっただろうと思うのだった。
結局公平は高い運賃を使ったが何の成果も無く、熱海に帰っていった。
友和は「お母さん、今日幽霊を見たよ、」
「何、言っているの、昼間から幽霊って、勉強の影響?」
「違うよ、今日欄から預かっていると、友達の北村真弓って人に会いに八坂神社に行ったら、間島欄さんが来たのだよ」
「馬鹿な話ししないでよ、その手紙見せてみなさいよ」
ワープロで書かれた手紙を見て、「悪戯よ、これは?」と一笑したのだった。
「それより、習字の発表会に載せて行ってよ」
「確かに父親も一緒だったのだけれどね」
そう言って友和は車を玄関に着けて母公子の来るのを待った。
年に一度文化会館の小ホールで自分の個展を開いて、生徒達に自慢するのが目的だった。
「欄ちゃん、お願いが有るのだけれど、この犬を抱いて、文化会館の小ホールを散歩して欲しいのだけれど、」
「可愛いわね、トイプードルの子犬ね」
「欲しかったらあげるよ」
「いらないわ、私マメちゃんいるから、でも可愛いわね」
「誰かに話しかけられても、笑うだけにしてね」
「何故?悪い奴を懲らしめる為だよ」
「そうなの?」
「これが終わったら金閣寺から、ホテルに行こう、明日は渡月橋、嵐山、欄ちゃんの好きな物買ってあげるよ」
「パパ、ありがとう」
最近は順平の事をパパと呼ぶように成っていた。
順平はそう呼ばれて嬉しかったのだった。
「此処だよ、習字の発表会しているから、ぐるりーと回って出て来て、
声かける人が居なかったら、もう一度頼むよ、此処からタクシーで金閣寺まで来て」
「判ったわ、何買って貰おうかな?」そう言いながら、子犬をカゴに入れて会場に入っていった。
中には子犬を連れた客が数人居た。
習字、何か全く判らないわ、そう思いながらゆっくりと歩いた。
「可愛いわねぇ、トイプードルの子犬ね、私も飼っているのよ」と上田公子が声を掛けてきた。
犬しか見ていなかった公子が、少し離れて小泉欄の姿、顔を見て血の気が引いて、そして倒れたのだった。
「奥様、奥様、大丈夫」
「上田さん」
「先生」とかみんなが口々に言って駆け寄った。
これで良いのね、そう思った欄は会場を後に金閣寺に向かったのだった。
漸く立ち上がった公子は「此処に居た、子犬を持った女の子は?」
「知りませんよ」
「貴女、見た?」
「いいえ」と言うのだった。
友和の次は私の所に出たの?幽霊?
「具合悪いので帰ります」
公子は会場を後に帰ってしまったのだった。
金閣寺に着いた欄に「どうだった?」
「叔母さんが一人卒倒して倒れたよ」
「そう!ありがとう、その子犬何処かに引き取って貰わないとどうするかな?」「私の知り合いペットショップに勤めているから、今、聞いてみるわ?」
「そうなの、それは有り難い、これ血統書、読み上げたら判るよ」
「幾らで?」
「幾らでもいいよ、その犬の役目は終わったから」
欄は公平に電話を掛けたが掛からなかった。
ペットショップに電話をすると「10万なら、引き取りますよ」と言われて、
「パパこの犬って幾ら?」と思わず聞いてしまった。
間島は笑って、「欄の小遣いにしなさい、早くコンパ辞めて欲しいな」
「ほんとう、貰って良いの、今日のお駄賃だよ」
「パパ大好き!」と腕を握るのだった。
上田親子の驚き方はやはり何か有るのだと間島は確信したのだった。
間島と欄は京都観光をして、欄は犬と一緒に熱海に帰っていった。
そして三ヶ月間で良いから私の自宅に住んでくれないか?と頼まれたのだった。
欄はもう間島が自分を子供の代わりに、満喫したいのだと判っていたから、来月から住んであげるよ、パパの子供としてね、と言ったのだった。
唯、問題は公平の存在だった。
彼にどの様に説明しよう?本当の事を話しても多分信じ無いだろう。
突然消えるか?旅行に行くか?どれが一番良いだろう?
でも間島の叔父さんの娘さんは誰かに殺されたのかも?それでその真相を探っている。
私が娘に似ているから、あの倒れた叔母さんが犯人なのかしらね、そんな事を考えながら新幹線で熱海に帰ったのだった。
その日の内に子犬を引き取って貰って、欄は自宅のマンションに帰っていった。
翌日「公平、お土産買ってきたよ」と電話をしたが凄く不機嫌だった。
「北村真弓って誰なの?」と聞かれて「その人、誰?」と欄が聞き返した。
「京都に行っていただろう?」
「何故?知っているの?」
「欄さんの事が気に成って」
「えー、まさか付いて来たの?最低ね」
「でも、毎月旅行に行くから気に成って、彼氏でもと思ったから」
「そうよ、彼氏と旅行よ、そうだ来月から同棲するかもよ」
「嘘――」
「コンパ休んで田舎に帰るのよ、お母さんの調子が悪いからね」
「ほんとう」
「そうだよ、公平の事嫌いじゃないから、安心して、心配なのね」
「明日の夜デートしよう」
「ほんとう?」
「それでね、マメ預かって貰える所知らない?」
「坂田獣医さん預かってくれるよ、高いだろうけれど」
「そうなの、聞いてみるわ、じゃあ、明日ね」
京都の上田家では、母公子と友和が「出たよ」、
「出ただろう、幽霊が、」
「本当だよ、私があげた子犬まで持って」
「消えただろう?」
「友和の云う通りだったよ」
「私がびっくり、していたら居なくなったよ」
二人は恐怖を感じたのだった。




