ふたりの欄
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間島順平は妻早苗と娘欄の三人家族で、早苗の不妊症の為に子供が出来なかった。
早苗が35歳の時に欄が生まれたのだ。
結婚12年目で、、順平には可愛くて仕方が無い一人娘だった。
昨年交通事故で妻早苗と娘欄を同時に失っていた。
その失意の底から一年、慰安旅行で名前も顔も同じ小泉欄と云うコンパニオンに会ってしまったのだ。
最初は自分の目を疑った。
唯自分の娘と異なるのは派手な化粧と服装だった。
顔、背格好、年齢まで一番びっくりしたのが名前だった。
源氏名で欄と名乗っていると思っていたが本名と聞いて、順平の心は高鳴った。
慰安旅行は沢山人が居るから、一度ゆっくり話をしてみたかったから、熱海に二度コンパニオンとして呼んだのだった。
そして、話をしてみると、そんなに派手な感じも無く、話も普通だった。
順平は娘欄と遊んだ場所に一緒に行きたくなって、娘の姿をすれば、どれ位似るのだろう?それが今回の鳥羽、伊勢の旅行だった。
娘の写真を見せて髪型を変え、服装を変え、鳥羽の老舗の旅館に親子と書いて宿泊したのだった。
育った環境が全く異なる二人の欄が、順平には重なって見えていた。
欄も自分が間島の娘に似ている事を感じていたから「お父さんと呼んでも良い?」
こんな高い真珠を買って貰える何て思ってもいなかったからだ。
「そうだな、親子かお爺さんだな」と順平は笑ったが、嬉しかった。
上田友和は間島欄に子犬が生まれたらあげるよと約束をしていた。
トイプードルの子供が生まれたと連絡が有った。
友和と欄は交際をしていた。
上田の母親も間島が建設会社の社長なので、家もまずまず、釣り合うから、上田の父は大学の教授をしていたから体面を重んじた。
欄は「友和さんが、チャンピオン犬の子供をくれるの、飼っても良いでしょう」
早苗は「うちにはフレールが居るじゃない、二匹も飼えません」
「でも、友和さんが、高級犬を欄の為にくれるのよ」
「貴女が拾って来たのでしょう、最近はお父さんと私が殆ど世話をしているじゃないの」
「今度は高級犬よ、フレールとは違うわ」
「同じよ、フレールも可愛いじゃないの」
「可愛いけれど雑種じゃないの、今度はチャンピオン犬の子供よ」
「兎に角、二匹も飼えません」
早苗に言われて、後日欄は友和に「二匹は飼えないから駄目って」
「雑種の方がチャンピオン犬より、良いのか?」
「もう、三年以上飼っているしね」
「誰かその犬育ててくれる人探してあげようか?」
「可愛がってくれるかな?」
「僕の友達に好きな人いるよ、君だからチャンピオン犬あげるのだよ、他の人なら母も絶対にくれないよ」
友和は欄に犬を飼って貰って母親と共通の趣味で仲良く成って貰おうとしていた。
母公子は大が犬好きで友和のお嫁さんは犬の大好きな人で無いと駄目よ、
と日頃から話していたから、欄が母から子犬を貰って育てる事は、友和には一石二鳥だったのだ。
暫くして「お母さん、友和さんの家に子犬貰いに行くの、フレールは犬好きの人が貰って育ててくれるのよ」
「本当なの?中々懐かないよ、フレールも大人だからね」
「一度お母さんも友和さんのお母さんに会ってくれない?」
暫くしてフレールを乗せて母と上田の家に子犬を貰いに行く事に成った。
「母は帰りの車で、鼻が高いお母さんね、好きに慣れないわね」
「可愛いわね、この子犬」
そう話している横を友和の車がフレールを乗せて走り抜けていった。
「あれ、友和さんと、フレール」と欄が言うと、早苗が「あそこ左に曲がると保健所の犬預かる所が有るよ」と言った。
「嘘―――」
欄は急いで車線変更して、追ったが信号が赤だったが、夢中だった。
「フレールが殺される」そう叫んだ時、大型トラックに激突していた。
車は大破、二人は即死だった。
順平は全く事情を知らなかった。
娘の信号無視での事故、唯不思議なのはフレールが居なくなっていた事、子犬の死骸が車の中に有った事だった。
暫くして上田の家を順平が尋ねたが、お亡くなりに成り、友和も悲しんでいますと言われただけだった。
フレールの事を聞いても何も存じません、の一言だった。
その後は身の回りの事をして貰う為に、お手伝いさんが昼間に来るだけの寂しい日々を間島順平は過ごしていた。
小泉欄はその順平に心の明かりを灯したのだった。
上機嫌の欄は旅館でも親子の様に振る舞って順平を満足させてくれたのだった。
翌日は鳥羽の水族館に、喜ぶ欄を見て目を細める順平だったのだ。
その日名古屋駅で別れた欄は、新幹線の中でマジマジとネックレスとイヤリングを見つめるのだ。
凄いよね、一流旅館にこの服も半端な値段じゃないわね、怖さすら感じる欄だった。
熱海に着いてそのまま泉田公平に会いに、マメの餌を買うのも有ったのでタクシーで向かった。
「こんにちは」と欄が公平に言うと、公平はびっくり顔で「こんにちは」と言った。
「今日はどうしたのですか?まるでいつもと違う感じで」
「それは、綺麗って意味?それとも変?」
「勿論、綺麗って云う意味です、別人の様です」
「そう?ありがとう、このネックレスも似合うでしょうこの服に」
「本物に見えますよ、イヤリングも、」
「何言っているの?本物よ」
「えー、本物なのですか?」
「当たり前でしょう」
赤福餅を土産に置いて欄は帰って行った。
今までの自分より数段綺麗なのだ。
化粧も今の方が会っているのね、気分を良くした欄は、公平の母親の勤める大城屋に行って反応を見ようと思った。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ」と番頭が出て来て「お泊まりでしょうか?」
「いいえ、仲居の泉田さんに会いたいのですが?」
「どちらさまでしょうか?」
「何言っているの?コンパの欄よ」
番頭は驚いた顔で「本当だ、欄ちゃんだ、女は怖いね、見違えて何処のお嬢様かと思いましたよ」そう言って民子を呼びに行った。
民子は欄を見るなり「どうしたの?綺麗に成って、それ真珠?」
「判る?」
「そりゃ、輝きが違うからね」
「宝くじに当たったのよ」そう言って笑った。
自分の化粧、髪型服装がその日を境に変わったのだった。
その後も順平からは日に一日は必ず電話が掛かって来て、コンパニオンを辞めて普通の仕事をしないのか?と云う日が多かった。
逆にコンパニオンの指名は日に日に増加して人気に成っていた。
泉田公平とは週に一度位お茶を飲んで話をする関係、の付き合いが有った。
それは公平の母を知っているのも安心感に繋がったのかも知れない。
間島順平は次の事を考えていた。
それは欄を成るべく娘に近づけて、あの事故の真相を確かめたかったのだ。
小泉欄と会うのは楽しいのだが、順平はあの娘が信号無視で事故に遭うなんて未だに信じられなかったからだった。
初めは諦めていたが、今小泉欄を知ってどうしても今までの疑問を解き明かしたかった。
娘欄はそんな無謀な事をする子ではない。
何かが娘を。。。?その疑問と上田の家に自分が訪問した時の態度に疑問を感じていたのだった。
丁度、その当時順平は海外に出張に出掛けていて、早苗が子犬を飼いたいと娘が話しているの、友和さんのお母さんが犬好きで下さるそうなのだけれど、フレールが居るから二匹も飼えませんと言ったのよ、順平はまた私達が世話をさせられると笑ったのだ。




