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お嬢様

   1-4

泉田公平は許せなかった。

子犬を蹴り殺した人を、自分の住む公団を通って、ツツジ公園に散歩に行く人が多い、そして糞尿の始末もしない飼い主が多い事が許せなかった。

死なない程度に農薬を散布してやれ、それがきっかけだったのだ。

坂田獣医病院が朝から忙しかったのは公平が犯人だった。

しかし、犬には罪はない、そう思った公平は一日だけでその行為は止めていた。

公平はそれより、店でハンカチを貸してくれた女性が気に成った。、

名前も知らない、唯、母が一度は会っているかも知れない、一度聞いてみよう、豆柴を飼っている。

20歳過ぎの少し茶髪の女の人だからと、綺麗に洗って袋に入れて自分の引き出しに入れていた。

公平と母民子はすれ違いが多く、民子は夜の仕事で公平は昼、公平は気に成って母に電話で尋ねてみた。

しかし沢山の客で、少し茶髪の20歳過ぎの子だけでは中々判らない。

客以外にもコンパから飲み屋の女の子、芸者、デリヘルまでその対象は余りにも多かった。

「他に何か?ないのかい?」

「犬を飼っているって話していた」暫く考えて「それなら欄ちゃんだ、コンパニオン夢の女の子だよ」「そうなの、」公平の語尾は下がった。

コンパニオンは遊ぶ女の子のイメージが公平には有ったから、失望したのだ。

「何処の女の子?ハンカチ返さないと」

「ハンカチ借りたの?」

「ちょっとあってね」

「コンパニオン夢って言うよ、確か小泉欄って子だよ」

「ありがとう」

公平は休みの日にコンパニオンクラブを訪れた。

客には丁寧だが公平には「欄ちゃんの家は教えられないな」

「預かり物が有りまして」

「渡して置くから」

「いえ、お礼も言いたいので」

「夕方時間が合えば会えるよ」実に愛想のない返事だった。

そうだ、母に頼んで連絡先を聞いて貰おう、公平は民子に連絡した。

「いつ来るか判らないよ、旅館から聞いて貰えば意外と教えてくれるかもね」

母に期待するしかなかった。


間島は欄に次回は伊勢志摩に行かないか?と言ってきた。

熱海からだと時間もかかるから「ちょっと、遠いのですが?」と言うと

「伊勢志摩には真珠島が有るから、多少髪を黒くしてくれたら、真珠を買ってあげるよ」

その言葉に「判った、行きます」と声が変わっていた。


大城屋が尋ねても個人の事だから電話とか住所は教えられないと言われて、民子はいつに成る事か?と思っていたが、その夜小泉欄は応援コンパでやって来た。

「叔母さん、こんばんは」

「判らなかったよ、髪は黒いし清楚な薄化粧で」

「どう?似合う?」

「私ら、年寄りにはとても良いよ、いつもより、可愛いよ」

「ありがとう」

「そうだった、うちの公平が世話に成ったらしいね」

「世話だなんて、」

「連絡先聞いて欲しいと言うので、お礼でもしたいのだろう」

「そんな事良いのに」と言いながら携帯のメモを民子に渡したのだった。

翌日、公平は欄に電話を掛けて一度会いたいと話した。

欄は母親の民子も知っているから、安心だ。

「いつでも良いよ、来週は旅行だから駄目よ」と答えた。

熱海の駅前の喫茶店で会うことに成った。

公平は以前と印象が変わって、とても夜の仕事をしている感じには見えなくなった欄に好意を持ったのだった。

「もう、落ち着きましたか?」

「はい、でも可愛そうな事をしてしまいました、」

「泉田さんの家は犬飼えないのね」

「規則で駄目なのです、でも可愛そうで、連れて帰ったのです」

「普通はどうなるの?」

「保健所が回収に来て、飼い主が現れるか、欲しい人がいたら、譲られるけれど、殆ど薬殺じゃあないかな?」

「わー、可愛そうね」

「飼い主のマナーも悪いですよ、最近なら僕が勤めている店に高級な犬を買いに来て、捨てる人もいますよ」

「可愛くないのですかね?」

「これ、お借りしたハンカチと、新しいハンカチです」そう言って公平は差し出した。

「そんなの、安物なのに」と言いながら包みを開けて、「これ、高いでしょうレースのシルク、イニシャルまで入っている」

「僕の気持ちですから」

そう言って二人はペットの話、仕事の裏話で打ち解けたのだった。

翌週、欄は新幹線で名古屋駅に、間島は改札で待っていて「遠いところ、ありがとう」

「いえ、いえこれで良いなか?」そう言って間島の前で一回りして見せた。

セミロングの薄めの茶色、光線によっては黒にも見える位の感じだった。

「とても、良い感じです、約束を守らないといけませんね」

「有難うございます」

「近鉄で一本だから」

窓側の席に欄を座らせて間島は楽しそうだった。

「聞いてもいい?答えたくなければ良いけれど」

「何?」

「何故?髪の色とかに?」

「本当は服も買ってあげたいし、美容院にも行って私の思う様にしたいのだけれど、そこまで無理いえないからね」

「変な髪型とか、変な服装じゃあ無ければ別に良いわよ」

「ほんとう?」

「まさかメイドの格好とか?」

「そんな趣味はない」

「じゃあ、いいよ」

「そう、でもオーダーメイドは無理だから、デパート行くか、真珠が似合う服買って髪型も変えよう」

「観光は?」

「明日だね」

間島は急に嬉しそうに成った。

どんな服買うの?どんな髪型?いったい何?小泉欄の頭に洪水の様に様々な空想が浮かんだ。

駅に到着すると高そうな美容院に連れて行き、美容師と何やら話して欄を座らせて、美容師は手際よくカットから、爪も切られて、ネイルが、鏡の自分は何処かのお嬢様に変身していた。

次は洋服屋さんに、今度も店員と話をして、店員が服を持って来て欄は文句無しに着替えるのだった。

間島が支払いに行ったので

「これって?高いの?」小声で聞いて「嘘-」と思わず叫ぶ程高かった。

普段自分が買う服なら何着買えるのだろう?

じゃあ、この髪も高いのかな?お嬢様スタイルだよ、これは?

「先程何か見ていましたね?」

「貴女様の写真ですが?」

「はあー」欄は意味不明だったが、今までの一連の間島の行動は?

自分が間島の娘さんに似ている?そんな疑問が湧いてきた。

しかし、それは言ってはいけない様な気が欄はしていた。

間島は何かの理由?死に別れ、家出、行方不明、寝たきりの病人?

世の中には三人自分に似た人が居るらしい、私がその間島さんの娘さんに似ているのだ。

だから、娘に似せようと髪型を変えたり、服装を変えたりしていたのだ。

今私が暴露すると間島の夢は一瞬に消えてしまいそうだった。

こんなにお金を使うそして身体も求めない。

自分の娘を襲う親は居ないだろう。

漸く欄は間島の行動が理解出来たのだ。

敢えてその事には触れないで、子供で今日は過ごそう。

そう考えたら欄は男と女を忘れて親子として接してみよう、そう考えたのだった。

勘定を済ませて、着ていた服を紙袋に入れて

「間島さん、こうしていると、親子みたいね」と欄が手を組んで言った。

間島の目に光る物が見えたので、当たりだわ、この人は私に娘を捜していたのだと確信したのだった。

「その服に合う、真珠を見に行こう」と言った声は涙声に成っていた。

真珠の島の様に真珠の養殖から生産、日本の真珠生産の歴史が展示されてその一角に真珠の販売コーナーが有った。

「わー、凄い一杯」

「どれが良いか?判らないだろう」

「目移りしちゃって」

欄は値段のゼロを数えて「きゃー、高い」とかこれ綺麗ねとか見とれて居たら、

「お嬢様には、これがぴったりですよ」と店員が持って来た。

「試されますか?」そう言って首に着けて「鏡で見て下さい」と言った。

鏡の中の自分がお姫様に成った気分だった。

「これとセットにされると良いですよ」

そう言ってイヤリングを持って来た。

自分のイミテーションのイヤリングを外すと、店員が着けてくれた。

「どうです?お似合いでしょう」

「は、はい」

鏡の中の自分は自分で無い、昨日までの私と今日の私は同じ人?

「似合うね、それにしなさい」間島は簡単に言って、「これで」とカードを手渡し。、

欄は鏡の自分に見とれていて、「さあ、旅館に行こうか?」

「はい」間島の後に付いて出て行きながら「少し待っていて、トイレに」

欄は慌てて店に戻って「すみません、今買ったこれ?って、幾らなのですか?」

店員に聞いた。

店員は笑いながら「セットで120万でございます」欄は腰が抜けそうに成った。

120万、120万と何回も言いながら出て来たのだった。




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