飼えば可愛い?
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昔、間島順平は庭にいた子犬を見て「何だ?その犬は?」
「あのね、学校の体育館の裏に捨てられていたのよ」一人娘の高校生が言った。
順平には目に入れても痛くない程愛しい娘だった。
「何故、連れて帰って来たのだ?」
妻早苗が「良いじゃないですか、子犬の一匹位」
「生き物は可愛い物だよ、わしも若い時は飼っていたが、死ぬ時が可愛そうでな、もうそれから飼ってないよ」と遠い昔を思い出していた。
「お父さん、この犬賢いよ、学校からずーと付いて来るのだよ」小学生の順平が言う。
「お前が、何か餌を与えたのだろう」
「違うよ、頭を撫でただけだよ、可愛いだろう」
「その、大きさからすると、大きく成る犬だな、足が太いだろう」
「子犬にしては足が太いよ」
「まあ、内は建設資材を置いているから、番犬には成るかな?」
「飼っても良い?」
「残飯でもあげなさい」
「有難う、お父さん」
順平は自分の名前をもじって「ジュン」と名付けた。
予想通り大きくなって、秋田犬の雑種だった。
賢くて順平の従順なペットに成った。
しかし大きく成る犬に、順平が散歩させて貰っている様な光景に両親も笑った。
有る夜忍び込んだ資材強盗に鎖に繋がれていた「ジュン」は無残にも金属の棒で殴り殺されてしまったのだ。
資材は「ジュン」の命と引き替えに獲られなかったのだが、順平の悲しみは幾日も続いたのだった。
娘が拾って来た犬を捨てろとも言えずに、飼い始めたのだった。
全くの雑種で全く判らない小型犬だった。
娘が大学生に成っていつの間にか、散歩に朝は順平が、夜は早苗が行き、時々娘は相手に成るだけに成っていた。
それは彼氏が出来たから、上田友和は大学の一年先輩でクラブにて仲良く成ったらしいのだ。
「内の家ね、母も僕も犬好きなのだ」
「君は?」
「私も犬は好きよ、家に飼っているわ」
「そうなの?内の犬は凄いよ、チャンピオン犬の子供だからね」
「何のチャンピオン?」
「品評会だよ」
「ゴールデンレトリバーとトイプードル」
「君のわ?」
そう言われて「。。。。」
「子供だけでも凄い値段だよ」
「私の家のフルールは雑種よ」、
「君の家社長さんだから直ぐに飼えるじゃない?良い犬」
「そうだけど」
「今度ね、トイプードル子供産まれるから、一匹あげようか」
「えー、ほんとう」
「母に話してみるよ、多分許してくれるよ」
「そうなの?」
「そんな雑種、保健所に持って行ったらいいよ」
「どうなるの?」
「新しい飼い主探してくれるか?。。。」と言葉を濁した。
上田の家は父が大学教授で、母は習字を趣味程度に教えていた。
本当は自慢なのだが、主人の体面上遠慮だった。
家族みんなが犬好きだったのだ。
下の弟は高校生だった。
大城屋で間島順平は長い風呂から上がってきた。
小泉欄はまだ寝ては居なかったが、目を閉じて寝た振りをしていた。
何をするのだろう、この叔父さんは?いきなり襲いかかる?
嫌、違うな、もう飲んでいるから役に立たない。
身体を触る?しかし何もしない。
欄の寝顔を見て「欄」と小さな声で言っただけだった。
何?10万も出して何もしない。
一緒に食事してカラオケ歌っただけ、変わった話は犬?たったそれだけ?何?
ますます判らない欄だった。
そう考えていたらいつの間にか朝に成って間島は露天風呂に行った。
「欄さんも行ったら、朝は気持いいよ」
ほら?やはり朝だったのだ。
「はい、行きます」
二人は屋上の露天風呂に向かった。
「それじゃ、ゆっくり、ね」そう言って自分は男性用に入ってしまった。
旅館に云えば貸し切りで二人入れるのに知らないの?
暫くして朝の食事をして「欄さん、今度は熱海じゃなくて他の場所にも行ってくれないかな?」
「えー、遠くに行くと私お店休まないと、それと豆君の世話も」
「ペットホテルに預ければいいじゃない?」
「結構高いですよ」
「お金なら出してあげるから」
「でも。私叔父さんと何もしてないし、手も握ってないのに、お金貰うの悪いわ」
「そうかな?それじゃあ、次から手でも繋ごうか?」
「何もしないで、私と話して、食事して、カラオケ行って楽しいの?」
「楽しいよ、一ヶ月が待ち遠しい位だよ」
「変わっているね、おじさん」
「変わっているかい?」
「変わっているわ?」
「そう?どう変わっている?」
「私はね、コンパしているけれど、身体は売らないのよ、叔父さんと泊まるのが初めてなのよ、信じ無いだろけれどね」
「信じているよ」
「だって、叔父さん何もしないで大金使って、今度はもっと遠い所に行こうと云うから、目的何かな?って?考えたの」
「聞かないで欲しい」間島は感慨深げにそう呟いた。
「叔父さんが、それで良いなら」
「本当はその髪ももう少し黒い方が嬉しいのだけれど」
「でもコンパだからね、余り清楚は」
「コンパ辞めれば?」
「生活出来ないじゃん」
「そうだな」
「叔父さんの、二号さん?」
「それは困る」
「でしょう、私も結婚したいからね」
「そうだよ、結婚して子供を産んで幸せに成らなくちゃ」
「叔父さんの話している事意味不明よ、時間だし帰るね、ありがとう」
「今度はもっと高級旅館に行こう」
「考えておくわ」そう言って小泉欄は宿を後にした。
暫くして間島も熱海を後に関西に帰っていった。
翌日小百合が「どうだった、あの歳の男性って、女遊び慣れているから、それなりに良かったでしょう」
欄はこっそりと小百合に教えていたのだった。
「なーん、にも、無かったよ、お金は貰ったけれど、食事もね、カラオケも」
「それって?10万も貰って?」
「何故?貴女よ、私でも良いのに」
「今度はもっと遠くに行こうって」
「何で?」
「店休まないと、って言ったら、お金出すって」
「変態?」
「そうでもないわ?唯ね、髪もう少し黒くして欲しいって」
「それだけ?」
「今度は、幾ら貰えるの?」
「判らないわ、」
「じゃあ、私マメの餌買いに行くわ」
そう言って昨日教えて貰った仲居の息子が勤めているペットショップに出掛けた。
名前は凄い「ワールドペット、熱海店」何か世界中に有る様な名前ね。
小泉欄は身長160センチで細身、化粧をしていなければ、普通の女の子だった。
店内を見回し、これがチワワ、15万、きゃー、高い、パグ16万、パピヨン12万、
高いのね、こんなの飼うのってお金持ちの趣味よね。
高ければ可愛い訳じゃないわよ、と思いながら見ていると「お客様、どの様な犬をお探しですか?」と店長の様な男が来た。
「見ているだけよ、高いのね、桁間違えたのかと思った」
そう言うと急に態度が変わって「おい、泉田お客様だ、いつまで、メソメソしているのだ」そう言って叱りつけられて、目を赤くした泉田公平が欄の所にやって来た。
「いらっしゃいませ」と言ったが涙声だった。
欄は気の毒になったが、この人だわ叔母さんの息子さん。
「こんにちは」と笑顔で言うと「僕は貴女の事知らないのですが?」
「そうだったわ、あのね、昨夜お母さんに旅館でお世話に成ったのよ」
「母に、ですか?」
「息子がペットショップで働いて居ると聞いたので来たのよ」
「それは、ありがとうございます」
そう言いながらまた涙ぐむのだった。
欄は自分のハンカチを出して「使いなさいよ、何か哀しい事が?」
「はい、僕が飼っていた、と言っても、昨日この店の前に捨てられていたのですが、子犬が今朝殺されていたのです」と涙ながらに語った。
「えー、殺された?」
「はい、朝餌を持って行ったら死んでいたのです」
「それは、可愛そうね、」
「朝、散歩の人が自分の愛犬に吠えて、びっくりして蹴り殺したらしいのです」「そうなの、悪い人いるわね」
そう言うとまた泣くのだった。
「そのハンカチあげるわ、私豆柴の餌欲しいの」
小泉欄は餌を買って店を後にした。
「優しい人なのね」欄はそう思った。




