駆け引き
1-25
夜に成って北海道警から、漸く車を発見したと連絡が入った。
高速道路の監視カメラと支笏湖周辺のカメラ、そして釧路から向かう車が一致したと連絡が入った。
これで柳田塔子と南田が釧路で同時刻に殺されて支笏湖に運ばれて沈められたのが実証された。
美優にも美容室から金沢守が横浜の美容室で働いて居るとネットに掲載されていると連絡が入ったのだった。
「美優ちゃん、今夜捕り物が有りそうで帰れないかも?」一平が電話してきた。「気を付けてね、殺し屋にはね」
「何故、知っているの?」
「妻の勤めですから」
電話を切って佐山に「美優が今夜は殺し屋との対決、気を付けてって言われました、何故?判ったのかな?」
佐山は笑いながら「行くぞ、熱海に」と刑事達と出発した。
美優は泉田公平の安否を知りたかった。
携帯に電話を「野平刑事の妻の美優です、以前ペットショップでお会いした」
「ああ、美人の奥さんですよね」
「ありがとう、今何処なの?」
「今、熱海で小泉欄さんと食事をしています、久しぶりで嬉しくて」
「そうなの?良かったわね」
「奥さんの言葉の通りでした」
「あのね、誰かに例の京都の叔母さん」
「はい、殺された愛犬家ですね」
「そうよ、その犬の居場所を尋ねられたら、私の携帯番号を教えてあげて」
「何故?」
「私が、居場所知っているから」
「そうなのですか?」
「そうよ、但し私が野平の妻だとは言わないで、犬を預けた人の番号だと、
教えて」
「誰が聞くのですか?」
「もうすぐ、聞きに来るわ、これは欄さんにも秘密よ、今後も言わないでね、危ないから」
「はい」
「命が掛かっているから、絶対に言ったら駄目よ、愛犬家の叔母さんの様に成るから、欄さんも貴方も」
「はい、判りました、誰にも言いません」
美優はこれだけ脅かしておけば、公平の性格から誰にも言わないと確信していた。
美優は坂田獣医に電話をして、シェリーの話しを説明した。
持ち主が亡くなった経緯を、今夜騒動が起こりますが、大丈夫ですから、厳重に戸締まりをして下さいと伝えた。
公平は欄に誰からと聞かれたが「お客様、の犬の事」と誤魔化した。
暫くして「もう、百合の店開いているかな?行きましょうか?」
「はい」欄は公平と今夜は朝まで過ごすつもりだった。
「ここよ(スナック赤い鳥)」欄がそう言って扉を開けた。
客が二人座っていたが百合の姿が見えなかった。
公平が入ると「百合-」と欄が呼んだ。
男が「今、煙草を買いに行っていますよ」
「そうなの?公平さん座ろう」と欄がカウンターの止まり木に腰をかけた。
男が急に立ち上がって扉の鍵をかけた。
「何?」
「貴方達は?」欄が叫ぶ。
「このビールを飲め」グラスを差し出す。
「嫌、」
「そこを覗いてみろ」とカウンターの後ろを指さす
「百合!」倒れていた。
「あの様に成りたくなければ、飲むのだ」
欄は百合が殺されていると思った。
「止めてくれ」と公平が言うと「お前は用事が有る」と男が公平の腕を後ろにして捕まえる。
「早く飲まなければ、腕をへし折る」そう言われて、渋々飲む欄だった。
暫くすると欄がカウンターに倒れた。
「何を飲ませた」
「毒だ、数時間以内に解毒薬を飲ませなければ死ぬ」
「さあ、一緒に彼女を抱えて行こう」
欄を両脇から抱えて、スナックを出た路地に車が有って、男が乗っていた。
欄を連れ込んで、公平を押し込む。
「早くしないと、死ぬぞ」
「助けて下さい」と公平が拝むように言う。
車は大城屋に向かった。
「この女は酔っ払いだ、判ったな」
「はい」
この一連の行動は公平のガードの刑事が見ていた。
そして佐山に連絡がされていた。
「大城屋に行ったらしい」
「大城屋って公平の母親の勤め先ですよ」一平が言う。
「後何分で到着する?」
「30分程は」
「急げ、母親も危ない」
「熱海の待機の刑事達にも、突撃の体制をさせて」
「人質を使った捜査なので、早くても遅くても駄目なのだ」
電話で「小泉欄と泉田公平が今、大城屋に入りました、小泉は酔っ払っている様です」
「薬か?」
「誘拐、監禁が成立するまで、早まるな」
「はい」
『真柴が泊まっているか確認したか?』
「泊まっていないらしいです」
電話を切って「真柴がいない?」
「何処に行った?」
大城屋の宿泊には入っていなくて特別扱いだったのだ。
意識の無い小泉欄と公平と殺人者二名は屋上に上がっていった。
一人は車で待機をしていた。
屋上の部屋に公平達が入ると民子が縛られて猿轡状態でいた。
「母さん」民子は公平を見てびっくり顔に成った。
民子の側に欄が転がされて「お前の言葉で、二人は死ぬ」
「お前の巧みなメールで上田の奥様も死んだ、間抜け面のお前がよくも、あんな事が出来るな」
「何の話しでしょうか?」
「惚けるのも上手だな、」
「意味が判りません」
「それより、早くしないと、お前の好きな女が死んでしまうぞ」
「助けて下さい、早く解毒薬を」と泣くと、民子が怪訝な顔で見る。
「上田の奥さんから盗んだ犬は何処だ?」
「何の事ですか?何も知りません」
「お前の母親にもこの薬飲んで貰おうか?」
「そんな、僕は何も知りません」
「お前しか犬を飼って脅迫出来ないのだよ」
恐怖で公平は美優の話を忘れていた。
美優は遅いなあ、もう掛かって来る時間なのに、焦りだしていた。
その時だった携帯が鳴って「お前は誰なのだ」と真柴が言った。
「貴方勘違いしているわよ、泉田さんは関係無いわよ」
「犬はお前が持って居るのか?」
「いいえ、安全な場所に預けて有るわ?」
「そうか、判ったそこから、犬の写真を撮影して送ったのだな」
「その通りだわよ、そこのみんなと交換しましょうか?」
「そんな条件飲めるか、お前を殺したいのだよ」
「私は犬とは一緒よ、貴方が殺した人の妹だもの」
「妹?殺した?」
「誰だ、柳田、南田、丸山、三原、刑事の?」
「沢山殺したのね、三原の妹よ、お姉さんの勤めて居た所で働いて居るのよ、
判った」
「何、坂田獣医か今から行く、待っていろ」自分で切ってしまった。
「お前達こいつらを見張って、俺が帰ったら連れて行こう」
公平も縛られて猿轡で転がされていた。
「取り敢えずは人質だからな、三原の妹は頭良いから、裏が有るかも知れない」
でも坂田獣医なら充分考えられると真柴は思った。
それは事実だったのだが、こっそりと裏口から真柴は待機の車に乗って「坂田獣医の家に行け」と言ったのだった。
一平の携帯に(静岡県警の諸君、坂田獣医の家に向かいたまえ、健闘を祈る)
とメールをした。
「佐山さん、またあのメールですよ、ほら」と見せた読んだ佐山が「よし、坂田獣医宅に急げ」と言った。
「大城屋もう、すぐそこですよ」と一平が不思議そうに言うのだった。
「犬を奪ったら、殺せ」
「はい」
獣医の家に到着すると締まっている扉を叩いた。
「壊しましょうか?」
「壊せ」
入り口を壊すのに道具を探す殺人者、車の工具でたたき壊そうとトランクを開けて頭を突っ込んだ時、上から佐山が締めた。
「痛い-」と大声を出した。
「人は痛くなくても自分は痛いか」刑事達に取り押さえられた。
真柴が「どうしたのだ」と言いながら車に近づいて来たのを一平が、後ろから襲いかかって、捜査員が真柴を取り押さえた。
「罠、だったのか」
「何が、だ」
「三原の妹に負けるなんて」
「三原の妹?」
「そうだ、上田の奥さんも俺も騙された」、
すると獣医の坂田良子がシェリーを抱いて「この人ですか?」
「あっ、此処に居たのだ」
「この人が主人を交通事故に!」と叫んだ。
「ワンワン」とシェリーが吠えた。
「真柴、犬にも嫌われる愛犬家だな」と佐山が笑った。




