長いキス
1-19
「何故?居ないのよ、あの子」と大きな声で公子が怒った.
「奥様、もう少しで大変な事に成る処でした」
「どういう事なの?」
「誰も顔を見られていないから良かったけれど」
「良くないわ、今から聞き出そうと思っていたのに」
「あの女は犬を盗んだ一味ではないですよ」
「えー、それはどう言う事?」
「あの女は刑事の嫁さんですよ」
「えー、刑事の?」
「直ぐに眠らせたから助かったけれど、顔を見られていたら殺すしかなかったですよ」
「先程、静岡の刑事が家に来て私が熱海のペットショップに行ったかと聞いたのは?それ?」
「奥様、危なかったですね」南が言う。
「南田の店に行ったのは失敗だったわね」
「でも関連は判りませんよ、もうシェリーちゃんを諦めなければいけないかも知れませんね」真柴が言うと「えー、そんな寂しい事、もうすぐ子供も産まれるのよ」と泣き出すのだった。
すると急に怒り出して「じゃあ、誰が?誰が犯人よ、間島の社長?」
「間島の妻と娘の復讐?」
「逆恨みしているの?汚い犬を私に押しつけて?」
「一度間島を調べて見ます」
「脅迫してきた連中がもう一人か二人いるのよね」
シェリーを何処に連れて行ったか?一番気に成る公子だった。
銀閣寺で一平と美優は何も言わないで抱き合った。
周りの人達がドラマの撮影かと思う程だった。
佐山は近くで見ていたが、二人の気持ちが判るだけに目頭が熱く成った。
二人は長いキスをして、漸く落ち着いて車の中で美優は話し出した。
「いつもの美容院に昨日予約していて、11時行ったら、私の専属のあゆみさんが居なかったのね、金沢って男の美容師が上手だと女の人が言ったので、お願いして、シャンプー台に座ってタオルを顔に、すると変な匂いがして起き上がろうとしたら、三人に押さえられて麻酔ガスを、途中車で眠って居て、地下室みたいな場所に入れられる前に注射をされて朝まで眠って居て、気が付いたら目隠しされていて、公園で車から降ろされたの、自分で目隠しを外したら白い車が走り去っていたわ?」
「怖かったね」
「でも何も無かったわよ?不思議なのよ」
「多分人違いに気が付いたのだよ」佐山が言う。
「人違い?」
「何かを聞きたい人が居たのだよ、何かが判らないけれど、美優さんがそれを知っている人に間違われた」
「何故?」
「バックも携帯も有るだろう、バックの中に何か身分の判る物、入っている?」「そうね、運転免許証位ですが?」
「見せて貰っていい?」
佐山が言うので美優が差し出した。
免許証の中を見て「これだ!」と一平の名刺を取りだした。
「これが?」
「そうだよ、これが美優さんの命を守ったのだよ」
「ほんとに」
「この名刺で人違いに気が付いたのだよ、野平美優、野平一平だろう、誰が見ても夫婦だろう」
「そうだったの?嬉しい」
美優がまた一平にキスをした。
「おいおい、もう許してくれ」
「名刺入れて置いて良かったわ」と美優が笑った。
三人は駅迄送って貰って大阪の間島建設に行く事にした。
間島は警察と聞いて、自宅に呼ぶ事にしたのだった。
会社で変な噂が出るのを恐れたから、そして話しの内容次第では?と思った。
夕方三人はタクシーで間島の自宅を訪れた。
「大きな家ね」と美優が言った。
「建設会社の社長だからね、建物は得意」と一平が笑う。
お手伝いの山田千佳子が三人を応接間に案内した。
広い応接間を見渡して二人の目が一点で止まった。
次の瞬間一平と佐山がお互いの顔を見て「ああー」と発した。
「どうしたの?」と美優が変な二人を見た。
そこに間島順平が入って来た。
「わざわざ、自宅まで来て頂いてすみません」
「静岡県警の佐山です」
「同じく野平です、これ妻の美優です」と会釈をした。
「静岡の警察は中々面白いですな、夫婦同伴で来られるとわ」と笑った。
「違いますよ、私は悪者に誘拐されて京都に来ましたの」と怒って美優が言った。
「すみません、余計な事を」と一平が美優を叱った。
「今日お伺いしましたのは、あの方の事ですが?」と佐山が写真を指さした。
間島が不思議そうに「妻と娘がどうかしましたか?」
「えー、娘さんですか?」と一平が驚いた様に言った。
間島が「娘に用事が有っても、居ませんよ」と哀しげに言う。
そこにお手伝いの千佳子がお茶を持って来た。
「すみませんが、妻を別の場所にお願い出来ませんか?」と一平が言う。
間島が不思議そうにみると「捜査の秘密は家族にも教えてはいけないのですよ」と佐山が言った。
「そうでしたか、千佳子さん、奥さんを娘の部屋にでも案内して下さい」
千佳子に連れられて美優は出て行った。
「娘さんは何処に?」
「欄ですか?もう随分前に亡くなりましたよ」
「欄さん?」
「そうですが?」
「病気で?」
「交通事故です、即死でした」
二人は間島が小泉欄に何故会ったか?何故何もしなかったか?
総ての謎が解けたのだった。
「小泉欄さんってご存じですよね」
「はい、知っています」
「すみませんでした、判りましたので失礼します」
これ以上聞く事がなかったのだった。
三人は間島の家を後にしたのだった。
「娘さんの部屋にも大きな写真が飾って有ったわ」
「そうなんだ」
「犬を持った写真だったわ」
「犬?」と佐山が言った。
「この家なら良い犬を飼っていただろうな」と一平が言うと「可愛いけれど、汚い雑種の犬よ」
一瞬犬で、もしかしてあの上田公子と関係が有るのかと考えたが、雑種では関係がないなと佐山は思った。
お手伝いの山田千佳子が追いかけて来て
「小泉欄さんもこの家に何日かいらっしゃったのですよ」
「そうだったんですか」
「ご主人も喜ばれていらっしゃいました、もう来られなくなって随分経ちます」「いつから、こちらで」
「奥様と娘さんが亡くなられてから、暫くしてからです」
「えー、二人一緒に亡くなった?」
「その様に聞いています」
それだけ話すと千佳子は家に戻っていった。
「事故は何処で起こったのだろう?」と佐山がぽつりと呟いた。
「戻って聞いて来ましょうか?」と一平が言ったら「京都じゃない?」と美優が言う。
「何故?京都?」
「部屋に写真が何枚か有って、京都の写真が多かったから」
「それでは決められないよ」と一平が言う。
「じゃあ、私が聞いてくるわ」
そう言って美優が走って間島の家に行った。
「困った探偵さんだ、また誘拐されますよ」と笑った。
暫くして勝ち誇った顔で戻って来て
「ほら、お手伝いさんが、京都だと聞いておりますが、と言ったよ」
「負けました」
「恐れ入ったか」
「お前達お似合いの夫婦だよ」と佐山が笑ったのだった。
三人はその日に静岡に帰って行った。
「小泉欄さんと瓜二つはびっくりしましたね」
「小泉さんは何処に行ったのでしょうね」
「意外と間島さんが隠して居るかもしれませんよ」と美優が言ったら「名探偵かも知れない」と佐山が煽てるように言うのだった。
その時メールで上田公子の家族の写真と職業が届いた。
念のために佐山が京都府警に頼んでいた。
子供は大学生と高校性だから関係無いだろう、と気にしていなかったが、一応「一平が、下の高校性勉強出来るのだ、上は普通の大学生だな、遊んでいる時期だな」と言って見ている。
「美優が見せて、写真」と言って一平の携帯を取り上げた。
「捜査機密だ」
「写真位いいじゃないの」そう言いながら見るのだった。
「この子、見た子やね」と兄の友和の写真を見た。
「何で?知っているの?」
「だって、先程の家の京都の写真に一杯写っていたから」
「何だって?」周りがびっくりする程大きな声だった。




