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手違い

    1-18

「佐山さん、美優がね」

「朝から元気だな」

「重要な情報を手に入れていたのですよ」

「どんな事?」

「先日の尾行の二人ですけれど、京都在住の愛犬家で習字の先生」

「何?それは凄い情報だ、松本刑事が消されたから間違い無く、その二人は事件の関係者だ」

京都府警に調査依頼を届けた。


「明後日から関西に出張だ」

美優と高木には毎日二人の刑事が護衛に付いていた。

真柴も探していたが中々見付けられなかった。

午後に成って、京都府警から該当者は一人、大学教授夫人で書道家の上田公子との回答が有ったのだ。

写真が殆ど無くて判り難かった。

「美優さん、一緒に行くか?反応を見る為に、俺達だけなら、上手に逃げるだろうが美優さんを見たら反応するだろう、唯、危険だが」

真柴は手下を使って美容室に電話で、お客の中で黒髪のショートボブの美人で電話を掛けていた。

タクシーの向かった方角の店から順に、もう毎日の様に公子からの電話で困っていた。

殺人のプロが先走って真理子を殺したのが原因だから仕方が無かった。

美優は月に一度は美容室に行く、ショートは伸びると駄目だからと、一平が喜ぶのも有った。

「京都に一緒に?」

大喜びで、佐山の叔父さんと一緒が気に成るけれど、綺麗にしてこようと思った。

予約をすると夕方5時か明日の朝11時のどちらかと言われて、明日に行く事にするのだった。

真柴の手下が順番に電話を掛けていたら「野平さんの事かな?その方なら明日11時予約されていますよ」と言われて、真柴に連絡がいった。

「可能性が高そうですね」と公子に言うと「南頼子に見に行かせるから準備をして待って、この前の失敗は駄目よ」

「はい、必ず」

シェリーを早く連れ戻したい、もうすぐ子供が生まれるからそれだけだった。

警察が監視しているから、上手に誘導して離せと指示がされていた。

護衛だとは考えて無かった。

人違いなら諦めよう、真柴達は美優の誘拐計画を進めたのだった。

今回は公子の所に連れて行く事にしていた。

この前の失敗は真柴にはショックだったから、殺し屋以外に富田、垣内、早瀬、三島、岩田、そこに美容師の経験の有る吉崎典子が加わって、自分の知り合いの美容師、金沢守も連れて来ていた。

9時に店に三島が入って

「まだなの?」

「すみません、うちは予約制なので」と言うと同時に、サングラスに帽子の殺し屋達が入って来て、当て身で気絶させて、奥で開店準備の美容師も首を絞めて気絶させた。

目隠しに粘着テープで縛られ、口もタオルで猿轡をして、店の休憩室に放り込んだ。

次々と来た従業員を同じ方法で捕らえられた。

六人は気絶したまま、そこに吉崎、金沢、三島、岩田が入り込んで制服に着替えた。

店の外に南と富田、早瀬、垣内が、予約で来た客に「美容師が交通事故で今日は着ていません、すみません」と断ったのだった。

駐車場に二台のワンボックス車がその中に、南と早瀬が、もう一台に富田と垣内が殺し屋達と乗っていた。

外からはまったく中が見えない、殺し屋達は松本刑事の手帳と携帯を持っていた。

店の中では大きなマスクをした三島と岩田が、店内の人達はプロでないから、計画通りに進めなければいけなかった。

殺し屋達が出来るだけ遠くに警察を誘導しなければ誘拐が出来ないから、「時間だ、」そう言って一台が駐車場を出た。

近くの路地に車を止める。

美優が美容院の駐車場にやって来て、直ぐに刑事が横に停車した。

南から(間違い無いわ、この女よ)とメールが届いた。

美優が車から降りて美容室に入ると、「いらっしゃいませ、私、吉崎と申します」

「あれ?いつもの美容師さんは?」

吉崎が「急に熱を出しまして」

「困ったわ、あゆみさんが良かったのだけれど」

「この金沢守も上手ですよ、特にボブは得意ですよ」

「そうなの?明日行かないと成らないから、いいわ、腕を見せてもらうわ」

「じゃあ、シャンプー台に」と座らせた。

仰向けに成って「それでは失礼します」と吉崎が顔にタオルをかける。

何、この匂いと思ったら、身体を三島と岩田が押さえた。

タオルの上から麻酔ガスのマスクが、やがて美優は気を失った。

外では車から松本刑事の手帳を刑事の車の前に落とした。

「あれ、警察手帳?」

刑事が車から降りて拾った。

「大変だ、松本刑事があの車に」

「追いかけよう」車は急いで発進した。

「余り近づくな、松本刑事が危ない」

「判りました」

もう二人の頭に美優は無かった。

「行ったわ」

「可愛い顔して、悪い事するのね、奥様の犬を盗むなんて」

「京都迄の長旅よ」

「少しの間は起きないでしょう」

「で、縛って、タオル咥えさせましょう」

美優はワンボックスに乗せられて、南、三島、吉崎、早瀬、が一緒に乗って出発した。

岩田は店の客を装って「みなさん、どうされたの?」そう言って粘着テープを外して消え去った。

店員が直ぐに警察に電話をした。

警察官が駆けつけた駐車場には美優の車が残っていた。

話を聞いた一平が「美優が危ない」と叫んだが、佐山が「今度は、直ぐには殺されないだろう」と慰めた。

警護の刑事が叱られたのは当然だった。

結局二台とも逃げられて、一台はナンバープレートをはめ込んでいて、全く判らなかった。

「佐山は明日京都に行こう」沈む一平に言った。

「本当に大丈夫でしょうかね」

「美優さんを殺すなら、こんな手の込んだ事はしないだろう、プロに任せれば、先日の尾行に関係が有る」

「そうでしょうか?」

「間違い無い」と佐山は断言した。

それは一平を安心させる為でも有った。

夜に成って美優は地下室に放り込まれた。

「明日まで寝てなさい」

薬を注射されて、眠ったままで起きたのは数分間だった。

上田の奥様が今日は来られないから、明日ゆっくりと尋問するだろう、真柴の事務所の地下の部屋だった。

朝早く佐山と一平が新幹線で京都に向かった。

京都府警の協力も得て、早速上田公子の家を訪れたのだった。

「静岡県警の佐山です」

「同じく野平です」

「静岡の警察が私に何の用かしら?」と高飛車な公子。

「熱海のワールドペットに行かれましたね」

「そうだったかしら?」と知らない素振りで話す。

「何を目的で、そんなに遠くまで?」

「人違いじゃ有りませんか?私が何をする為に熱海に」

「貴女を見た人が居るのですが?」

「人違いでしょう?」

「そうですか?仕方ないですね、また来ます」

一平が「えー」っ、小声で言った。

「それでは失礼します」と佐山は出て行ってしまった。

一平も仕方なく付いて行った。

「何故?もっと、聞かないのですが?」

「一平先程の奥さん、今から出掛ける処だよ、多分美優さんの処だ」

「えー」

「服装と態度が今、出掛けると示していたよ」

「そうなのですか?」

「直ぐに出てくるから」

暫く待っていると、佐山の予想通り南が車で迎えに来て、京都府警の刑事の運転で尾行が始まった。

真柴は美優を地下から出していた。

それは持ち物の中に、一平の名刺を見付けたからだった。

美優は目隠しをされて、京都の公園で解き放され。、

「危なかった、よく調べて誘拐をしろ」

美優は殆ど眠らされていたから、顔を覚えているのは美容院の二人位だった。


尾行して到着したのは「ここは?」

「真柴と云う、愛犬家の事務所ですね」

「怪しいな」外で暫く待機していると

「一平ちゃん、今、何処にいるの?」と美優が電話してきた。

「美優!無事か?」

「訳判らないのだけれど、今、京都みたい」

「えー、京都?俺も今、京都だ、迎えに行くから待っていて」

「銀閣寺って、近くみたいよ」

「よし、急いで行く」

「どうなっているの?」と一平が言う。

「何か手違いが起こったな」と佐山が言ったのだった。



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