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旅の必需品

 8日目。

 この日も起きたらいつも通りに川で顔を洗い、指に塩をつけて歯を洗う。塩辛さと指を突っ込む事にかなりの忌避感はあるが、歯磨き粉も歯ブラシも無いので歯磨きしません。とは言いたくないので妥協案として割り切って奥歯まで指を突っ込んでゴシゴシ擦る。ついでに昨夜も飽きる事なく俺の体を攻撃してきた跡の虫さされも掻く。

 その後は川の水で口を濯ぎ、最後にジンジャー水を飲んで終わり。

 飲むと胃から熱がカッと全身に行き渡り、寝ぼけた頭が起動する感じがする。


 ゴブリンが落とした携帯食糧が手に入ったので、あるかどうかわからないが友好関係を結べる知的生命体が住む町探しを本気で考えたい。

 これは有って貰わないと精神的にも来るであろう冬を越える物理的にも困る。


 そこで先日見つけた超硬木の伐採に取り掛かる事にした。石斧では傷一つ付かない堅さで今までこの1本しか発見出来ていないから恐らく貴重品であるはず。そう思い牙製のナイフを直径4センチ程の枝にあてて、その上から斧を叩きつける。


 かすかにナイフが樹皮に埋まったが、ギンッともギャンッとも聞き取れる嫌な音を出したナイフはただの一撃で刃こぼれしてしまっていた。ナイフが足りるか心配になる堅さだ。


 刃をあてる位置をズラしながら斧を叩きつけボロボロになったら次々とナイフを交換し、枝の中心まで斬れた所でようやく折れてくれた。

 その時には8本あったナイフも5本が使い物にならなくなってしまったが、おかげでこちらの世界でも通用するであろう簡易の槍と、裁縫針が手に入った。

 ちなみに裁縫針は枝から分かれた小枝の部分の事ね。小枝を払うのにも1本消費したが、森に行けば落ちているで有ろうナイフと違って代用品になる物すら無いので大切にしないとな。


 肩掛け袋とナイフと槍と針、火打ち棒と携帯食料と超バナナ。

 旅の必需品は大分揃ってきたが、最後に大事なアイテムの自作をする為に自宅に戻る。


 サバイバル本で読んだロープの重要性。

 縛り方だけでも本を束ねる時に楽な縛り方から始まって崖に落ちた人を引き上げる縛り方、すぐ解けたり締まって絶対に解けないとか無数にあり、その有効性はサバイバルで必須である。

 これは移動しながら作る事が出来ないので、余裕が有る今の内に完成させておきたい。幸い材料になりそうな蔦だけは無数にあるので皮を剥き、水で洗った後は手頃な石で叩いて繊維を取り出していく。

 本でもロープを自作する方法など書いてはいなかったが、本能の赴くまま作業を考えて進めていく。



 ★

 さあさあ、私がミミズの穴に入る時に頭に詰め込んだサバイバル知識が役に立っていますね。

 ロープはサバイバルの基本であり、必需品です。

 荷物を縛れば鞄になり、棒に巻き付ければ簡易松明になり、止血にも使えますし麦藁帽にも梯子にもなると無限の可能性が生まれます。

 これが安直に蔦のままでは強度が安定しませんし、結ぶのが難しいので命綱としては心許ないのでやはり異世界転移する場合にはロープを用意しておくのが賢明でしょう。



 ロープ作りと言っても自分でやった事があるのは三つ編みぐらいだが、まずは繊維を紐にしないといけない。


 叩いて解して水で洗って綺麗な白い繊維になった物の端を結び、その先から掌で擦って纏め上げていく。

 そこで初めての紙縒? 昔の人が藁でもって草履やしめ縄を作っていたやり方で、俺の想像するロープも螺旋に巻いた繊維で紐を作り、それを3本ぐらいで更に螺旋に巻いてロープにしてあった記憶がある。


「お? これ以外と早く出来そうだな」


 掌を擦る度にグルグルと繊維同士が絡み合って1本に纏まっていくのが結果が目の前で出るので苦にならない……と思っていた時期が俺にもありました。


「えっと終わっちゃったけど、どうやって長くするんだろう」


 目の前には1m弱の紐で先端からまだ紙縒ってない繊維がかすかに出ているがこのままではどう見てもロープには長さが足りない。

 繊維を継ぎ足していかないといけないのかと気付いた時にはもう遅かった。結んでいないので、今のまま繊維を足すと繋ぎ目が弱くなってすぐに切れてしまうのが素人でもわかる。


 そこから無言で自分が作った物を自分で解き、次からは目算5分の1の繊維を小分けに足していく。これやってみるとわかるが繊維の長さと、出来上がる紐の長さがまったく一致しない。大体半分の長さになってしまうのだ。そうやって出来上がった紐同士をまた纏め上げるので、20mのロープを作ろうと思うと40mの紐を3本は作り上げないといけない計算になる。


「掌一回で5cm120mだと…… 計算しちゃいけないな」



 なんでこうなったんだろうな。

 自分でいうのもなさけないが、これまで文武平均だった。走るのが好きだったのと友達が居たからと言う理由で中高と陸上部に所属はしていたが、大会で上位を狙うとかタイムを競う程ではなかった。

 家の目の前にあって不合格は有り得なかったからと工業高校に進み、優秀な成績で入学した物の赤点をとらなければいいぐらいの勉強しかしなくなり、工業高校の赤点なんて授業を聞き流すだけでも回避出来た。



 繊維が足りなくなりそうなので蔦を手に川辺に行き、叩いて水で洗って解して木に掛けるとまた紐作りを再開する。



 世界のレールから見れば下の人生になりそうだったが、工業高校で就職する気があるなら浪人など有り得ない。

 超一流大学の卒業生が面接を数十社落ちている世の中でも俺の高校だと卒業生の3倍の入社応募が集まっていた。つまり1人頭3つの会社を選んでどこに行くか選べた。

 何のラインか何の職人になるかの選択肢しかなかったが、世界的な大企業や表だってはいないが1つの分野で90%のシェアを持つ倒産が有り得ない会社まであった。俺もそうやって1社の採用が決まっていたし、お上品なデスクワークでよく聞く社内闘争よりも食いっぱぐれのない手に職に魅力を感じていたので不満にも思わなかった。

 残り少ない学園生活を満喫するはずが、いきなりのサバイバル生活。



「こいつはこれぐらいの長さでいいか。さって次の作ろう」



 無料でよめる小説投稿サイトにはまり、工業高校生の自分なら何を作れるなどの内政やどんな能力が強いかなどと妄想した事もある。

 だけど異世界での尻の拭き方や街にたどり着くまででこんな地味で命がけの日々を詳しく書いた小説なんてみたことない。そりゃそうだ、成り上がるから面白いんであって不必要な部分は省くから街は見える位置に転移するし、状況説明をしてくれるキャラも登場させる。

 内政や強力な能力よりも、その能力が発揮出来るまでの間生き残る為の能力が現実では必要だった。


「きっ?」


 くだらない事を考えている間に小猿がまた来ていたらしい。てかよほど慣れたのか魚が旨かったのか知らないが、真横まで来ているし。


「とりあえず飯にするか。そういやいい加減名前でもつけてやらないとな」


 モンキー、コング、頭の毛だけが黄色いのでヤンキー。なんか思いつくのは横文字ばかりだな。日本語で猿……


猿若えんじゃくとかどうだ?」

「うっきっき」


 手叩いて飛び跳ねているし、きっと喜んでいるん…… だよな? 飯に反応した訳じゃないと思うが。


「まあいいや。猿若もやるか? 川の向こうに石投げるんだ」

 同じ体勢でずっと作業していたせいか体がバキバキになっていたが、足下に落ちている石を拾って仕掛けの上流に石を放り投げてやる。

 石が川に落ちると盛大な水しぶきをあげて周囲の魚が下流の仕掛けの方に逃げて行く。


 猿若は「何やってんだコイツ?」って表情で俺を見ているだけだったが、俺が石を投げ続ける内にマネして川に石を放り始めた。


「そうそうそれで魚が取れるぞ」

 こいつはかなり賢い。言葉はわからないだろうが、やってみせれば同じことをできるし、石を徐々に下流投げると何がしたいか理解する。


「きっきっききい」

「おっし。じゃあ俺が中に入って追い込むから、石投げるのストップだ」


 そこまでは理解出来なかったのか川の中まで着いてきてしまったが、構わず仕掛けを上げると食料になりそうなサイズの魚が5匹。今日も大漁だ。


 ちゃんとした手順さえ分かれば手慣れた物で、捌いた魚に塩を振り枝に刺して火の周りに並べていく。猿若は昨日の事を覚えていたのかさっそく超バナナを取りに向かった。

 こんがり上手に焼けた頃に戻ってきた猿若と早速物々交換をして、魚を食べる。


 どうやら猿の世界もルールがあるようで俺に渡せるのは日に1本だけらしい。バナナは常温で1週間は保つはずなのでこれは取っておいて旅の食料にしよう。


 火のはぜる音を聞きながらロープ作りを再開し、偶に猿若を毛繕いしてやる。こいつ野生なのに毛がフワフワで気持ちいいんだよな。


 作業も1段落つき、気付くと辺りはどっぷり日が暮れていた。


「こんな星空は見た事がない」


 生き抜く事で精一杯で、夜空を眺めるのは今日が初めてだった。

 星座にまったく興味が無かったので違いは分からないが、色も大きさも記憶と大差ない月が1つの星空は、星が物量を持って降り注いできそうな程近く感じ、視界すべてを覆う。

 多分サラハ砂漠だとかアフリカのサバンナとかいけば同じぐらいの星は見えたのかも。と眺めながらも気付く。

 ……そっか。異世界=地球外だと思ってたけど、俺の活動範囲内が俺の世界なら隣の県でも異世界なんだよな。



 ☆

 主人公君が格好いい事言っちゃってますねー。

 まあまあ満天の星とかは分かりやすい異世界絶景です。異世界転移を望む読者の方々は、

 ベトナムのカブの群れやチベット仏教圏内やカナダを流れるユーコン川。

 こういった場所は大多数にとって、分かりやすい異世界です。

 かといって何も金銭や時間を使うこういう場所にしか異世界が無い訳ではありません。


 蟻の世界・釣りの世界・鍛造の世界・夜営の世界・絵本の世界。皆様の身近にも異世界の片鱗は転がっています。

 今までの人生で触れなかった物事はすべて異世界に通じているのですから。




 そうは言っても、一番てっとり早いのは異世界転移装置を購入する事ですがね。




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