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異世界がアップを始めました。

 



 カバンも一杯になりそろそろ帰ろうかとした丁度その時、前方の藪が揺れたかと思うと大量の狼? が飛び出して来た。


 そしてただ今絶賛逃亡中。


 バカでかい猿は見かけた物の、今まで敵らしい敵に出会わなかったので油断して居たのもあるだろうが、追ってくる狼どもは油断とか警戒でどうにかなる相手じゃなかった。


「犬系なら兎の次に出てくる雑魚のはずだろ!」


 必死に拠点方面に走ってはいるが、人の足で狼を振り切れるはずもなく動き出してすぐ、たった数歩で追い付かれてしまった。


 ちなみに狼と言った物の断じて狼ではない。

 どんな生態系なのか謎だが狼どもは毛皮は茶色と黒の横縞で尻尾が無く、2対4個の赤い目をしていた。


「狼なら平原だろ! 山にくんなよ」


 ☆主人公君の間違った知識です。地球の狼は森林に住む種も多くいますし、自分の知っている知識がすべて合っている前提で判断すると危険です。


 狼はこちらの左右後ろを一定距離をキープしながら時折ジーパンの端を噛まれ転ばされ、起き上がり走り出すと腕を噛まれ投げ飛ばされる。

 狩りというより新しいおもちゃを壊さない様に遊んでるとしか思えない。

 飛び込んで来るのを迎撃? 無理無理無理、子供の喧嘩とは訳が違う。子狼の狩りの練習相手にされているようだが不用意に近づいてはこないし、噛みつきに来る時にはかならず複数で死角になる位置から襲ってきやがる。


 河原に逃げ込んでどうにかなる策なんて無かった、ただ昨晩野宿しただけの河原にしか自分のテリトリーと言える場所が無かっただけだ。


 お気に入りのマウンテンパーカーは袖が無くなってしまっているだろうし、ジーパンはより自然なダメージ加工されたな。ハハハ……


 空気を吸っても吸っても肺に酸素がいった気がしない。それなのに空気だけがパンパンで張り裂けそうだ。手足どころか全身が燃えるように熱い。

 諦める暇すら与えられず逃げ続ける為だけに逃げ続け、遂に前方から木々の切れ間と耳元でうるさい心臓音に紛れて水がシャラシャラと流れる音が聞こえた。


「はっはあっはあっはあ。やっと着いた」


 そうして俺は一匹の狼が足にまとわりついたまま、河原に降りる斜面を転がり落ちた。




 目を開けるのも億劫だが、瞼の裏には激しく光が点滅していてそれを見続けるのも苦痛だ。目を開けると開けた空にちぎれ雲が浮かんでいた。

 体は骨折ぐらいはしているかもしれない。まあ五体無事でも勝てないので大した違いではないのだが。


 しかしいつまでたってもその時は現れなかった。足元を噛んでいたはずの狼も鳴き声と共に離れていった。


「っつつつ」


 噛みちぎる為の攻撃ではなかったのか肉も抉れて無い手をついて体を起こすと、それでも手首から鋭い痛みがする。


 狼どもは斜面の上でこちらを窺ってはいるが、何かを躊躇うように左右に彷徨くだけで襲ってくる気配がない。


「お前らもしかして水が怖いのか?」



 ☆いいえ血で川を汚す事を嫌っての事です。

 これは前回の説明でも出ましたが、死体が放置されれば腐り病原菌が発生。病原菌に川が汚染されてしまえば周囲に住む生き物は絶滅の可能性すらあります。

 狼が動物なのか魔物なのかは関係なく、経験しなくても生きる為にしてはいけない事をちゃんと理解しているのです。



「俺、生き残ったのか」


 実感が沸くと、意地汚くても生きる気力と痛みがぶり返してきた。かまどや寝床予定地はすぐ近くのはずだが、足を捻挫したのか動けそうにない。

 狼はなおも未練がましくこちらが上がってくるのを待って立ち去ろうとしないし、こうなりゃ持久戦だ。


 幸い着火セットはいつも持ち歩いているし、薪もある。こうなるとカバンが無事だったのは幸いだったな。


 転んだ時に弓が折れていたが、薪用の枝で作り直してしまえば着火は30分もかからなかった。経験って大事だな。


 狼は何度か斜面を下ろうという素振りを見せたり吠えてきたがよほど水が怖いらしく河原に降りてくる事は結局なかった。そんな緊張状態の中、突如第三勢力が現れた。



 そいつらは狼が獲物が諦められずに彷徨いている真上、張り出した枝から一斉に飛び降り狼を握り潰しては森に放り投げていった。


 突然の状況に頭が追い付かないが、猿達が狼を掴むたびゴキッやパキッと骨が折れる音が響き、投げられた一瞬後に狼の悲鳴と藪が割れる音が続く。


「おいおいなんだよ強すぎだろ、もしかして助けてくれたのか?」


 河原からでは見えないが、狼の遠吠えと遠ざかっていく足音が聞こえる。

 助かったとも思ったし、言葉が通じるのかわからないが感謝もしている。してはいるのだが、理不尽さが拭えない。

 俺がもし金属だか革鎧に鋼の日本刀を持っていても狼に囲まれたら勝てる気がしない。よしんば勝てたとしても今のように重傷を負う。それを無造作に撃退する存在が目の前にいる。

 狼やこの猿達が異世界でどれ程の強さかわからないが、異世界行って冒険者なんて中2病その物の妄想で、実際異世界に来てしまったからにはほぼ唯一心の拠り所だった希望が力で握りつぶされたこの理不尽さ。


 無意識に出た俺の言葉が聞こえたのかこちらを見ていた猿は、すぐに興味を無くし背中を向ける。

 その背中に張り付いていた小猿(と言っても1mはありそうだが。大人の猿が大きすぎる)が興味深そうに俺を眺めていた。


 その視線も斜面の向こうに消え、残されたのは一人だけだった。




 はいは~い。「主人公君九死に一生を得るの巻」でした。

 確かに始め生き残る為のお膳立てはいたしましたが、ここから先は主人公君次第です。


 四つ目狼はこちらに住む普人族ですと安くても装備を整えた同数が居れば怪我しても死人は出ないで済むぐらいの敵ですね。


 猿は大冠猿。立ち上がると身長2mにもなる猿で頭の部分の毛が金色な事からこの名前がつけられました。栄養豊富な超バナナ(この表現面白かったのでこれでいきましょう)を主食とし、テリトリーに進入さえしなければ温厚です。

 こちらも普人族が装備を整え、同数なら死傷者多数でぎりぎり生き残りが出るぐらいの強さです。



 今回四つ目狼は獲物を追いかけるのに夢中で大冠猿のテリトリーに気づけなかったようですね。


 第一章のタイトル通り『生き抜く』為には今回の様に自分以上の存在と相対する機会が何度もあるでしょう。

 人間の長所は思考能力と道具を使える器用な手ですが、異世界では思考する為の情報を零から獲得しなければいけません。そして道具を手に入れる為の道具を作る必要があります。


 次回は「主人公君めげない」です。







前話と分割してみましたが、これからは1話1日を基本で行こうと思います。なので薪集めるだけの1日だった場合は短くなるかもw

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